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2020/01/29
胴体部分をまっすぐに立てるには、まず、脊椎を伸ばし、骨盤のバランスを取ることが不可欠です。それには、脊椎のすぐ傍にある筋肉の働きが必要となります。それは背中の深い所にある小さな筋肉の集まり(群筋)で、ある群筋は1個の脊椎骨に、また、別の群筋は複数の脊椎骨にかかったりしながら、脊椎に沿って右に左にと、枝編み細工のようになっています。
こうした群筋の興味深い所は、小さなものの集まりなので、個々には大きな影響ある仕事をしなくて良いという事です。ただ、非常に統制のとれた形で、個々の脊椎を動かしています。
統制のとれた脊椎の働きは滑らかなダンスをする上での必須条件ですが、ひとつ、機能面で知っておいた方が良いことがあります。
それは、個々の筋肉は、その筋肉が備える最大の力の1/6以下の力が掛かっている時、理論上、その筋肉は休みなく働き続けることができるという事です。最適なバランス・ラインから僅かに外れてしまうと、こうした筋肉(筋繊維)は何倍もの力を使わなければならず、そうなると群筋は疲れ果て、背中表面についている大きな筋肉に仕事を委ねてしまいます。
これは、ダンスの観点からすると、柔軟性のない固まった背中になってしまいますので、良いダンスをしようと思ったなら、背中の深い所にある群筋を目一杯ではなく、必要な分だけ使うことが重要になるのです。
では、良いバランス・ラインを探すときの、両足の上にくる骨盤の位置を見てみましょう。
静止を保つには、静止に関わる複数の関節のバランスが取れていなければなりません。静止に関わる関節は、股関節、膝関節、そして足首の関節(足関節)です。足関節は二つありますが一つと見なしても構いません。
問題は、体の上から下に下りてくる大量の力(ボディ・ウェイト)は、常にこうした関節の曲がる場所(図7のR)をきちんと通過しているわけではないという事です。きちんと通過しないと、僅かなボディ・ウェイトでも関節の中に動き(+)を引き起こしますから、そうなると、体はバランスを取ろうとして筋肉の力を使って打ち消す動き(-)をします。
バランスが取れているときの股関節の垂線は、股関節の回転中心(R)の前に来ます。上からかかる重さは股関節の曲がった所(+)に降りてくるので、股関節を伸ばす筋肉(伸筋)が働いてバランスを取り戻そう(-)とします。この動作には、二つの筋肉グループの選択支があります。
ひとつ目は大きな背中の筋肉。そしてもう一つは膝の曲げ伸ばしに関与し、ハムストリングスと呼ばれる大腿の後ろにある筋肉です。背中の筋肉を使って背中を張りつめると、ムーブメントに大きな支障をきたすので、ダンスではおおむねハムストリングスを使うことになります。ビルは私たちのハムストリングスを捕まえて、その存在を気づかせてくれました。
膝関節におけるバランス・ラインの位置は膝の回転中心の後ろ側にあります(図の白丸)。従って、上からの重さは膝の曲がる動き(+)につながりますが、それに抑止(-)をかけるのが大腿の前面にあり膝を曲げ伸ばす動きに関与している大腿四頭筋です。(図9)
バランス・ラインの終着点は足関節の前になりますので、結果、すねの骨(脛骨)は親指の方へと傾き(+)、すねと足の角度が狭くなります(背屈)。その動きをスロー・ダウン(-)するのは、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)です。