1. あらすじ
1970年、ロンドン。複雑な生い立ちや容姿のコンプレックスを抱える若者ファルーク・バルサラ、後のフレディ・マーキュリー(ラミ・マレック)は、ある日、ギタリストのブライアン・メイ(グウィルム・リー)とドラマーのロジャー・テイラー(ベン・ハーディー)のバンドのヴォーカルが脱退したと知り、自らを売り込む。
1年後、ベーシストのジョン・ディーコン(ジョー・マッゼロ)が加入し、フレディのアイデアでバンド名は”QUEEN”に。そんな中、フレディはメアリー・オースティン(ルーシー・ボイントン)に出会い、一目で恋に落ちる。やがてシングル「キラー・クイーン」が大ヒット。その後も数々のヒット曲を世に放ち、一躍世界的スターとなったQUEENだったが──。
(公式パンフレットより抜粋 ©️20
thCentury FOX、東宝)
2. 社交ダンス界でも愛される名曲の数々
あけましておめでとうございます。年を遡り2018年12月、社交ダンス界は毎週のように各種パーティーが開催される季節でしたが、こちらの映画の影響か、QUEENの曲がデモで使われたり、フレディの仮装をする出演者が見受けられたりしました。筆者が参加したパーティーでも、実に2つのパーティーでエンディングテーマに使用されておりました。
フレディ・マーキュリーの半生を中心に、数々の名曲誕生の瞬間や、20世紀最大のチャリティコンサート「ライブ・エイド」での圧巻のパフォーマンスを再現するとともに、華やかな活躍の裏にあった知られざる秘話を描き出したボヘミアンラプソディ。「Rotten Tomatoes」などでの批評家の評価は低かったものの、11月9日に日本公開されるやキャストによる熱演、ライブ・エイドの迫力に絶賛評が相次ぎ、熱狂は世代・職業・性別を問わず幅広く伝播。応援上映などのイベントも好評を博しています。全世界では興収約722億円を記録。18年公開作の全世界興収では、第8位にランクインしているという状況です(2018年12月現在)。
3. 1+1=2ではない
ボヘミアンラプソディは、制作に実に8年もの月日を要し、フレディの音楽性・愛や友情など、様々なテーマが内包されています。その中で、社交ダンス愛好家の皆さんにぜひ見ていただきたいのは、QUEENのバンドとしての軌跡です。
QUEENは当初、フレディの非凡な才能に支えられていました。フレディの元婚約者であるメアリーに「あなたはとてもエキゾチックよ」「でも、もっと人と違うことをやらなくちゃ」というセリフの通り、フレディはQUEENの最大のヒット曲「ボヘミアンラプソディ」を世に送り出します。映画でも描かれた通り、この曲は当時ラジオで放送される楽曲の一般的な尺である3分を超えていることや、呪文のような歌詞、オペラを下敷きにしたメロディラインが「一般受けしない」という理由で発売をレコード会社に拒否され、フレディはこの会社との契約破棄に至ります。かつてゴールドディスクを送り出したプロデューサー、レイ・フォスターに「こんな呪文のような曲でゴールドディスクが取れるか!」と放逐されますが、後年、QUEENはこの曲でゴールドディスクを手中に収めるのです。
ここから始まる一連の成功に、フレディは自分を見失い、バンドのメンバーの大切さや、自分の置かれている状況を軽んじて放蕩三昧の日々を送りますます。けれど、有り余るお金や栄光を手にしたものの、自身の孤独に苛まれ、癒されない日々を送るのです。
メンバーには当初秘密裏にソロ活動の契約をし、QUEENは事実上の解散。ところが、その活動の中で「雇った音楽家は、俺のいう通りに演奏するだけだ。言いなりだ。誰もかが意見をしてくれるわけでもなく、誰かが新たなアイデアを提供してくれるわけでもない」と、かつて対立する意見を遠慮なくぶつけてくれたブライアンやロジャー、ジョンが、自分にとってどれほど大切だったかを思い知るのです。
映画のクライマックスでもあるライブ・エイドの前にメンバーたちと和解したフレディは、「今後発売する曲は全てQUEEN名義とし、ギャラを当分とすること」という条件を飲み、以降は全てバンドとしての活動にこだわりました。
社交ダンスは、必然的にカップルで活動します。その時に、そのペアにおける自分自身に、過剰に奢ってはいないでしょうか? カップルの相棒は、自分を支える戦友です。唯一、自分に対等に意見をぶつけ、同じ土俵で戦ってくれる人です。QUEENも晩年、”RADIO GAGA”などフレディの手によらず、新たなアイデアでバンド”QUEEN”としてのヒット曲を生み出していきます。メンバーの意見は1+1=2にならず、10にも100にも魅力を生み出していきます。私たちは、自分と一緒に活動しているメンバーをそういう相手だと認識できているでしょうか?
4. 手の中にある愛に気づいていますか
数いるアーティストと同様、フレディは45歳という若さで夭折します。成功によって自らを見失いながらも、メアリーが「私たちは家族よ」と言ったように、メンバーやごく限られた身近な人への愛を取り戻し「寿命の限られた悲劇の主人公として命を終えたりしない」との決意の通り、その非凡な人生を全うするのです。
多くのアーティストが自分の身近にいる友人や恋人、家族などのる愛に気づかず、悲劇的な生を終える中、フレディは恋人のジムや終生の恋人であったメアリー、バンドのメンバーに看取られその短い生を終えます。
だからこそフレディの音楽は愛に満ち溢れ、今も美しく人々の心を打ち、数々の名デモンストレーションが今の新たに生み出されるのかもしれません。
題字イラスト/月城マリ