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コラムタイタニック

第43話タイタニック

2021/06/25



5月7日と5月14日、金曜ロードショーでタイタニックが二夜連続放映されました。

あらすじ


1996年、タイタニック号に眠るお宝「青き海の心」を求めて、海底に沈んだ船体の調査を進めていたチームが1枚の絵を発見した。そこに描かれていたのは「青き海の心」を胸に付けた女性の姿。絵に描かれているのは自分だと名乗り出た老女(グロリア・スチュアート)は調査チームのもとへ向かい、自らの体験を語り始める。
1912年4月、破産状態の家を救うため、アメリカで政略結婚をすることになったローズ(ケイト・ウィンスレット)は、婚約者のキャル(ビリー・ゼーン)と母と共にタイタニック号に乗り込んでいた。しかし、無教養で自己中心的なキャルとの結婚が耐えられなくなったローズは、船の舳先から海に飛び込もうとする。そんな彼女を助けたのは、ジャック(レオナルド・ディカプリオ)。ポーカーでタイタニック号のチケットを手に入れた彼は、アメリカで画家になる夢を叶えようとしていた。ジャックと行動をともにする中で、ローズは何にも縛られず、才能にあふれた彼に次第に惹かれ始める。
母の説得により、一度はジャックとの恋を諦めようとしたローズ。しかし、彼への思いは捨てきれず、ジャックに自分をモデルに絵を描くよう依頼する。キャルから贈られた「青き海の心」だけを身に着けた絵に、キャルへのメッセージを添えて船室に置き去りにし、ジャックと共に逃げ出すローズ。しかし恋に燃え上がる2人に皮肉な運命が待っていた…。
© Twentieth Century Fox Film



タイタニックで踊られたのはなぜアイリッシュダンスだったのか





船の舳先でバックハグをするジャックとローズのシーンはもちろん映画の中で最も印象的なシーンですが、ダンスをやっている人なら見逃せないのは三等客室で二人がタップを踏んだりクルクル回るダンスシーンではないでしょうか。これらはアイリッシュダンスと言われるものです。アイルランド音楽のリズムジグ、リール、ポルカが贅沢に盛り込まれ、楽器はフィドル、イリアンパイプス、マンドリン、バウロン。スプーンをふたつ合わせて演奏する特徴的な楽器スプーンズも登場しています。ダンスファンのみならず、アイリッシュファンにも必須の映画と言われていて、タイタニック以降アイリッシュやケルト音楽が盛り上がったのも記憶に新しいところです。

ローズを助けたお礼にと一等船客の夕食に招かれたジャックでしたが、どんなに高級な食材で立派な料理を出されたところで、居心地の悪さに辟易してしまいます。そこで彼がローズを” So, you wanna go to a real party?“と三等客室に誘います。そこではバンドの演奏の中、人々が思い思いにダンスを楽しんでいました。

ここで踊られるのがなぜアイリッシュダンスかといえば、19世紀半ば、アイルランドは大規模な飢饉に見舞われ、移住を余儀なくされた人たちがいました。タイタニックはイギリスからアメリカへ渡る船です。ローズは破産寸前とはいえ一等客室を利用するような貴族の娘ですが、ジャックがいる三等客室の乗客にはアイルランド人またはアイルランドからの移民目的の乗客がいたのではないかと考えられます。ジャックは画家を夢見てアメリカに渡る若者という設定ですが、ラストネームはアイルランド系のドーソンです。裏設定では、そんな飢饉の余波を受けてアメリカに渡ったアイルランド人の子孫の一人だったのかもしれません。

アメリカに渡ったアイルランド人の生活の実情は、なかなか大変なものだったようです。アイルランド移民は他の国からやってきた白人たちからは低俗だと虐げられ(WASPは大抵の他民族を差別しているような気がしますが…ゴニョゴニョ)、仕事につくこともままならなかったとか。そんな彼らの音楽はジャックとローズの格差を炙り出しているとも言えるし、そんな彼らの音楽を受け入れて心から楽しんでいたローズは本来ならジャックと幸せになれたはずだとも思うのです。

そんな音楽とダンスを効果的に使って描いた三等客室のシーン。タイタニックは海に沈んでアメリカに到着することは叶いませんでしたが、一時ジャックとローズが幸せだったことを念頭に見返してほしいシーンです。

ものすごく余談ですが、シナリオライターとしてタイタニックは「サンドイッチ回想法」と言われる珍しい構成のお手本作品として必ず通る道なんですよね。というか、他にサンドイッチ回想法の作品を寡聞にして知らないのですが、どなたかご存知でしたら教えてください…