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コラムダンスウィズミー

第19話ダンスウィズミー

2019/09/25

あらすじ





「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」の矢口史靖が監督・脚本を手がけたミュージカルコメディ。一流商社で働く勝ち組OLで、幼いころの苦い思い出からミュージカルを毛嫌いする鈴木静香は、ある日、姪っ子と訪れた遊園地で怪しげな催眠術師のショーを見学し、そこで「曲が流れると歌って踊らずにいられない」という“ミュージカルスターの催眠術”にかかってしまう。その日から、静香は街中に流れるちょっとしたメロディや携帯の着信音など、あらゆる音楽に反応するように。術を解いてもらおうと再び催眠術師のもとを訪れた静香だったが、そこは既にもぬけの殻。困り果てた彼女は、催眠術師の助手をしていた千絵とともに、催眠術師の行方を捜すが……。「グッモーエビアン!」の三吉彩花が主演を務め、ミュージカルシーンの全ての歌とダンスを吹き替えなしで演じる。共演には、お笑い芸人のやしろ優、シンガーソングライターでモデルのchay、「怒り」の三浦貴大、「銀魂」のムロツヨシ、ベテラン俳優の宝田明ら個性豊かなキャストが集結。
©配給:ワーナー・ブラザース
©あらすじ:映画.com



ミュージカル嫌いに朗報!?


ダンスウィズミーといっても、こっちではございません。



「ミュージカルって意味がわからないんだよね」
「なんで突然、歌って踊り出すの?」
と公言している人は、実は多く、有名な芸能人でいえばタモリさんなどがその代表格です。まあ、後に元SMAPの香取慎吾さんのミュージカルを観劇しにいったりしているのですが(筆者はその場に居合わせました、ドヤッ)。
矢口監督はそんな疑問を逆手に取り、心ならずも音楽が聞こえると、それに乗って歌って踊ってしまう…それによって日常生活に著しく支障をきたし、全てを失ってしまう主人公をこの映画の中心に据えました。
出演者のオーディションはカラオケボックスのパーティールームで行われ、主演の三吉さんはそのことにとても戸惑ったとか。一方で演出する側の矢口監督は、現れた三吉さんがなんだかむすっとしたように見えていたのに、歌い出した途端にパッと華が感じられ、この映画の主役は彼女しかいないと思ったそうです。
一方で、ミュージカルファンからは、「ミュージカル映画」って銘を打っているけど、ミュージカルじゃないじゃん…という反応もあるようです。一体、それはどういうことなのでしょうか?



ミュージカル≠音楽劇


ミュージカルと言って私たちがすぐに思いつくのは、「マイ・フェアレディ」「サウンド・オブ・ミュージック」 「オペラ座の怪人」などです。厳密に分ければ、ミュージカルにはブック・ミュージカルと言われる全編を通じてストーリーが進行するものと、ストーリーではないけれどもコンセプトを表現するブックレス・ミュージカルが存在します。ブックレス・ミュージカルの代表作は「CATS」や「コーラスライン」でしょう。
いわゆるミュージカルは、一つのストーリーを表現し、台詞や感情の昂りを歌やダンスの中で表現するというところに特徴があります。劇中に音楽が多用され、劇中歌として表現されている音楽劇との違いはそこにあります。音楽劇は、いわゆるインストゥルメンタルや挿入歌という演出の一環と捉えることができます。
ミュージカルの一番の特徴は、感情が高揚した際の台詞やシーンを歌や音楽が使われるという点であり、歌や音楽がなければ芝居自体が成り立たないのです。



ミュージカルに成り行くギミック


ダンスウィズミーの冒頭から結末にかけて、ミュージカルファンが違和感を感じるのはその部分でしょう。前半では、主人公の静香は心ならずも、ムロツヨシ演じるあやしい催眠術師のせいで、聞こえる音に反応してしまう。携帯電話の着信音にすら反応してしまう体になっています。彼女の心からの言葉、つまり台詞や感情に合わせて歌っているのではなく、聞こえてくる音楽に合わせて歌って踊ってしまうだけなので、この時点で、この映画はミュージカルではないのです。
…個人的には、選曲が山本リンダさんの「狙い撃ち」「ウェディングベル」「タイムマシンにお願い」などに、なんで昭和感たっぷりなんだろう?と思わないでもない笑。
静香を演じる三好さんも、シャンデリアにぶら下がったり、会議室のテーブルの上でいきなり歌って踊ったり、そんな荒技を吹き替えなしで頑張ってはいるものの、感情が乗ってそうなっているわけではないせいか、どこかハッチャケ感が足りないような気もします。

それが、ミュージカルに変わったのは、洋子の結婚式でのシーン時点。





洋子を演じるchayさんが、結婚式で暴れるシーン。ちなみに彼女は、テラスハウスに登場していたシンガーソングライターですね。ここでの歌は、裏切られた彼女の心情を紛れもなく感情の高ぶりとともに表したシーンです。それまでのストーリーの流れで、観客は思わず洋子に感情移入してしまう。
つまり、それまで音楽劇を見せられていた、矢口監督が想定する「ミュージカルに疑問を持っている観客」が、見ているうちにいつの間にかミュージカルに引き込まれてしまう…そんなギミックが隠されているというわけ。

ぜひダンス好きでミュージカルに触れたことをない方々に、感想を聞いてみたい一作です。本コラム公開時点で、劇場公開中です!