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コラムSWAN―ドイツ編―

第47話SWAN―ドイツ編―

2021/10/25



パートナーとの軋轢を乗り越えなければ、より高みで踊ることはできないのでしょうか?



本編あらすじ


聖真澄(ひじりますみ)は、北海道の小さなバレエ研究所からセルゲイエフに才能を見出され、東京政界バレエコンクールへ参加、国立バレエ学校の1期生となる。ロンドン・モスクワ・ニューヨークでの留学経験を経て、モダンバレエの世界で頭角を現す。真澄は創作バレエ「アグリーダック」をボリショイバレエ団の天才リリアナと競演するが、未完成のそれは周囲の評価を得られなかった。悩み苦しんだ真澄は心に触れるものを感じていたレオンとシュツットガルトで新たな一歩を踏み出すが──
© 平凡社



苦しみを乗り越えなければより高みで踊ることはできないのか




第11回で紹介したSWANドイツ編のご紹介です。
日本でレオンと出会いクラシックバレエで一定の評価を得た後、真澄はニューヨークでバランシンを中心としたモダン・バレエを学び、無二のパートナーとなるかと思われたレオンと別れてしまいます。そして葵と踊ったアグリーダックが酷評を浴び、今後のキャリアの危機に直面したところでレオンと再会を果たします。

S W A Nシリーズは本編からこの「ドイツ編」・「モスクワ編」に真澄とレオンの娘を主人公にした「まいあ Maia SWAN actⅡ」と続く壮大なシリーズですが、社交ダンスをやっている方には、ぜひ読んで欲しいのがこの本編に続くドイツ編です。というのは、真澄がレオンというパートナーを得た後、彼とのパートナーシップを確立することがドイツ編のテーマだからです。

本編のラストでは、バレエダンサーとしては危機的な状況には陥りつつも、レオンと再会して彼との絆を確かめ、希望に満ちた形で終わっていました。そしてドイツに渡って、再び二人の仲に危機が生じます。それまで真澄を突き放すような形ではあっても、常に真澄の成長を促してきたレオンがオーディションで落選して、真澄と立場が逆転してしまうのです。

これって社交ダンスをやっているカップルだと往々にして経験することで、よくあるケースは経験者のリーダーが未経験または経験の浅いパートナー(ちなみにバレエのパートナーはお互いのことを指しますが、社交ダンスの場合は便宜上女性の役割のことを指します。ややこしい!)とカップルを結成して、初めはリーダーの立場が上だったはずなのに、パートナーの方が実力をつけて立場が逆転……なーんて状況ですね。特に社交ダンスの場合はパートナーの方が成長のスピードは速くなりがちだしね。そしてパートナーの方がより高い実力を持ったリーダーを求めて、カップルを再結成してしまったりして……

もちろん逆もまた真なりですし、カップルを解消したり再結成したりというところまで行かなくても、お互いの実力差が見えてそれを擦り合わせるということはどのカップルも随時必要なタイミングでやっているはずなのです。もし両者がずっと同じスピードで成長していければそれに越したことはないですし、そんなカップルがいたら実に幸運だと言えるかもしれませんが、むしろ成長という意味では止まってしまうんじゃないでしょうかね?カップルって、戦友でもあるけれどライバルでもあり、お互いに引っ張り合って抜きつ抜かれつしていかなければ成長が止まってしまうんじゃないでしょうか。

ところがそれまで下に見ていたり、対等だと思っていたパートナーとの差を感じて平静でいられるほど、人間というのは簡単な生き物ではないわけです。レオンもそうで、あれほど真澄を大きな包容力で包み込んでいたはずなのに、彼女の方が自分に先んじていると感じた途端、自信を喪失して驚くほどの迷走を始めます。それは、クリスと身体の関係を持つことも厭わないほどでした。結果的にエドの助けで、そこまで道を踏み外さなくて済むんですけどね。

ここに至ってついに真澄の感情が爆発し、
「私が悔しいのは、レオンがそんなことしなきゃならないほど自分を追い詰めていたのに、私には何も話してくれなかったこと!」
「パートナーをシドニーに頼むほど、私たちの間には信頼関係がなかったこと!」
そう素直にレオンの何に対して怒っているのかを吐露することで、お互いの弱みを曝け出して解決に向かっていきます。二人の率直な対話をきっかけに、ニューヨークで失ったルシィに関するわだかまりをも解決して本当のパートナーシップを築いていくのです。

バレエに関しては、社交ダンスと違ってペアを組むのは必ずしも常に同じ人とは限らないものの、やはりヌレエフとマーゴのように伝説のパートナシップというのが存在します。相手を変えるからこそ比較の中で発見があったり、別のパートナーシップを組んだ相手や周囲からの示唆で気付くこともあるわけです。社交ダンスの競技をでは必ず固定の相手というのが難しいところで、自分が悪くないと思えば相手を責めるしかなくなります。

真澄とレオンから、きっとパートナーシップについて思うところが見つけられるはず。お悩みの皆様はぜひ一度読んでみてはいかが?