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コラムSWAN

第11話SWAN

2019/05/25

あらすじ




15歳の聖真澄はマイヤ・プリセツカヤの白鳥の湖に大きな感動を受け、公演後の楽屋裏で衝動のままに、プリセツカヤの前でブラック・スワンの一部を舞って見せる。全ての始まりはそこからだった……。

著作 ©有吉京子
出版掲載・画像 ©︎集英社(週刊マーガレット・マーガレットコミックス)

 

真澄のライバルたち


SWANは1976年から1981年に連載され、クラシックバレエをテーマにした大ヒット作です。

後に真澄の娘である「まいあ」を主人公にした「Maiaまいあ-SWAN actⅡ」、モスクワ編、ドイツ編また姉妹編として「SWAN-白鳥の祈り-」など続編・スピンオフなどがシリーズ化されました。

本作は、あらすじに記載したブラック・スワンがきっかけで、地方の一ダンサーであった真澄が一流のバレエダンサーを目指して世界へ羽ばたいていく壮大な物語です。作品の中には実在のダンサーや振付師、芸術監督(バレエ界でいう舞台監督)などが登場し、バレエの魅力をリアルに感じることができます。冒頭に登場するマイヤ・プリセツカヤも、ロシアに実在した伝説的なダンサーの一人で「瀕死の白鳥」はあまりにも有名です。

物語の核を成すのは、バレエに立ち向かう葛藤が故に一筋縄ではいかない真澄の恋物語なのですが、ここではダンス情報誌らしく、真澄のライバルを紹介していきたいと思います。

■ 京極小夜子
彼女は物語序盤から登場し、真澄の非凡な才能を早いうちから見抜いたダンサーの一人です。バレエ一家に育ち、容姿にも恵まれたエリート中のエリートですが、決してそれに奢ることなくストイックにバレエの道を追求していきます。だからこそ、真澄の才能を早くから認め、いつか彼女が自分を追い越していく存在かもしれないと脅威に感じています。さながらガラスの仮面なら北島マヤにとっての姫川亜弓、エースをねらえ!なら岡ひろみにとっての竜崎麗香のような存在です。

小夜子は重要なコンクールの練習の最中、アキレス腱断裂という大怪我を負って舞台から降りざる得なくなります。真澄はその代役として、大きなチャンスを掴みとるのです。ライバルとは言っても、自分を温かく見守り、早くから認めてくれた小夜子を踏み越えていかなければならない──。

真澄にとってはバレエ界の中の過酷な現実を痛感し、その痛みを超えても大役を掴み取っていく覚悟と責任を教えてくれた重要な役所です。

■ リリアナ・マクシモーヴァ
真澄がバレエダンサーとしての評価を受け、世界に進出した頃、彼女に出会ったことで失意のどん底に陥り、一時的に精神的な難聴に陥ります。

リリアナの練習風景を真澄が初めて見たときのシーンが、漫画としてもとても美しく衝撃的なので、ぜひ一度読者の皆さんにご覧になっていただきたいのですが、リリアナは髪をキュッと結び、ほんの数ステップ踏んだだけで練習を終えてしまいます。

「これだけ……?彼女の練習ってこれだけなの!?」

衝撃を受けた真澄は、リリアナの舞台を見て、あれだけの練習でどうしてこの踊りができるのかと、さらに激しいショックを受けます。

努力は必ず報われると信じて、ひたむきな努力でそこまで這い上がった真澄には、努力だけでは遠く及ばない「本物の才能」を見せつけられ、立ち直れないほどの葛藤の淵に立たされるのです。

一方でリリアナも、それまで親やセルゲイエフ先生の庇護のもと、純粋培養で育てられてきた自分に対し、全く異質な存在である真澄と対峙することで、徐々に彼女の中の本気に火がついていきます。

その対立の結果は──!?……これは読者の皆さんに、ぜひその目で確かめてほしい所です。

こういったライバルたちの葛藤は、ダンスのジャンルは違えど、一度でも競技ダンスの世界で、それ以外の世界で、何かと戦った経験のある人なら共感したり、感情を揺さぶられたりしてしまうシーンの連続です。

 

社交ダンスの間口の広さ


「(先生たちは私のダンサーとしての資質に問題があることはわかっていたのに)進級もさせずにあと一年、また一年……最後の年にヌレエフ(※)だけが言ってくれたの。
※ルドルフ・ヌレエフ:高名なバレエダンサーで後にパリ・オペラ座バレエ学校で芸術監督を務め、後進の指導にあたった。2019年に彼の半生を題材にした映画「The white crow」が公開予定。

『僕はバレエダンサーとしては背が高いが、君は(女性ダンサーであるにも関わらず)僕よりももっと背が高い』って」



……と言ったのは後に同パリ・オペラ座で後進の指導にあたったバレエ講師の弁です。クラシックバレエは本人の努力ももちろんですが、容姿や体の柔軟性、関節の可動域など、先天的な要素に左右される傾向が非常に高い舞台芸術です。かつて、ロシアやヨーロッパの有名なバレエ学校では、入学の条件として親や親戚の体型までが調べられたと言います。遺伝的に太りやすい体質では、バレエダンサーになった後で苦労するのは本人だからです。

現在では本人以外の素養で審査をするのは人権侵害である、とこのような条件は撤廃されているものの、何れにせよバレエで身を立てるには厳しい条件を通り抜けなければなりません。

さらに「1日休めば自分に分かり、2日休めば教師にわかり、3日休めば観客にわかる」と言われるほど厳しい日々の研鑽を積んで、やっとバレエダンサーになり、そのポジションを維持できるのがバレエの世界です。

今でこそKバレエカンパニーや、日本で唯一の国立のバレエ団を有する新国立劇場がありますが、国内でバレエダンサーがバレエだけで生計を立てるのは依然としてなかなか狭き門のようです。

昨今では大人のためのバレエエクササイズのクラスが広まりを見せ、未経験者でもできる間口が徐々に広がっているようですが、筆者が子どもの頃は憧れつつも敷居が高い習い事でした。

SWANに登場する真澄も、非凡な才能を持ちながら、最初は特に傑出した人物ではありません。けれど彼女の一番の才能は「努力する」ところにあり、その真摯な姿勢に真澄を引き上げてくれる人物が登場し羽ばたいていく……読者に夢を見させてくれる要素をたっぷり持ち合わせています。

比較するのは失礼かもしれませんが、バレエはやはり社交ダンスと比べるとまだ若干間口が狭い感じがするのも事実です。大学生から始めても国内トップを目指せる、プロ団体がいくつか存在して久しい、どんなに高齢になっても何かしらの形で楽しめるなどの点では、社交ダンスに軍配があがるように思われます。

とはいえ、クラシックバレエの華麗さ、コンテンポラリーバレエの深い表現には抗い難い魅力があるもの。圧倒的な画力で、その魅力を余すところなく堪能できる作品です。