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コラムダンス・ウィズ・ミー

第34話ダンス・ウィズ・ミー

2020/09/25

ダンスウィズミー といってもこっちではございません。



そして、こっちでもございません。




あらすじ





ヴァネッサ・ウィリアムズ主演のダンシング・ムービー。チャンピオンに返り咲きを狙うトップ・ダンサーと、キューバからやって来た若者との恋模様を描く。躍動感溢れるダンス・ミュージックや、国際的トップ・ダンサーたちによる華麗な踊りが見どころ。父を知らない青年ラファエルは、父とおぼしきダンス・スタジオの主宰者ジョンを追って、母国キューバからアメリカへと渡った。迎えにきたダンス教師のルビーと出会い、スタジオの雑用係として日々明るく働くラファエル。洗練されたステップを持つルビーと、ダンスが体に染み込んでいるラテン育ちの彼は反目し合うが────
©ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント



映画に必要なのは、「リアル」じゃなくて
「リアリティ」





映画を観終わった瞬間に、誰もが突っ込んだに違いない。

「結局……ラファエル、社交ダンス踊らんのかい──!」

いい意味で、次々と社交ダンスの常識を裏切ってくれる本作「ダンス・ウィズ・ミー」。特にラストの競技会のシーン、ラファエルたちが出場しているのは何部門なんだ?デモンストレーション部門的なものがあるのか?だったら出たいぞ。ほぼリフトしかしてないけど、それでいいのか?
そして、ルビーたちは世界選手権のはずなのになぜジャイブがないんだ。なぜ、曲と曲の間にインターバルがないんだ。選手たち、死んじゃうでしょ(笑)。

……などなど。ある意味映画的に演出していてツッコミどころ満載なのですね。ところが、そのダンスシーンがどれも素晴らしい!

映画に必要なのは、「リアリティ」なんですよね。「リアル」にこだわらなくてもいいんだと思わせてくれます。

ストーリーは、ダンシング・ハバナとは逆に、主人公ラファエルの方がアメリカにやって来ます。彼の父親探しが一つの大きな柱になっており、演じたのはプエルトリコの歌手チャヤンです。

このチャヤンが、とってもとってもチャーミングなんです!!!

「音楽がないと踊れない。君たちのスタイルでは踊れない」

という冒頭のセリフの通り、心から音楽を楽しんでいるのですね。映画ラストでなんか、社交ダンスの教室がサルサ教室に変わっちゃってるしね(いや、講習の一つなのかもしれないけれども)。本国で大変人気な歌手だそうです。他に出演作がないのか探してしまったほど魅力的です。チャヤンのダンスや出演作、もっと見たいー!

一方のヒロインはヴァネッサ・ウィリアムズ。6年ぶりの競技会出場でチャンピオンへの返り咲きを狙い、シングルマザーでありながらラファエルとの恋模様に悩む女性を演じています。
全てのダンスシーンを吹き替えなしで演じたのは圧巻です。

映画に必要なのはリアリティだけど、ダンスだけはリアルであってほしいのです!

彼女がすごいのは、競技ダンスとサルサ両方を演じきっていること(そりゃ、ジャイブまでやる余裕ないか)。作品の中では終始一貫、競技ダンスは権威の象徴、サルサは自由の象徴として登場するのですけれど、踊りのスタイルでも表情でも両者をしっかりと自分のものにして演じ分けています。さすがトップスターは違うな〜という感じ。米国版シャルウィダンスのジェニファー・ロペスと比べても、ヴァネッサの方がダンスにおける表現は断然上だと思うな。



社交ダンスは窮屈なもの―?



しかし、なぜこの年代の社交ダンスまたは競技ダンスを扱った映画は、社交ダンスを形式的で規則まみれで窮屈なものだと描くのでしょうか。そして、対極にある自由の象徴としてサルサを登場させるのか?ダンシング・ハバナといい、本作ダンス・ウィズ・ミーといい、そういうストーリーかつ演出なんですよね。
サルサではないけれど、ダンシング・ヒーローでは、競技ダンスのステップから逸脱したダンスがその競技会のトップを奪い、主人公二人の心を結びつけた演出をしているし、ダンシング・ハバナもヒロインがサルサで心を解放されるストーリーなのです。

社交ダンスが社交ダンスのスタイルのままでありつつ、いかようにも自由に踊れるものとして描かれているのは、ダーティー・ダンシングくらいなのではあるまいか(どれもこれまで本コラム解説しているので、ぜひご一読くださいね)。

どれも映画としては大好きなのですが、社交ダンス=窮屈として演出されるのはちょっと悲しいかな。

それも、この当時の社交ダンスの風潮として、理解できない演出というわけでもありません。90年代はイングリッシュスタイルの全盛期。そのあと少しして、イタリアンスタイルが出てきたり、よりスピーディーで身体能力重視のスタイルが出てきたりして、今で言うWDSFとWDC系のスタイルに分裂していったように思います。

話が若干逸れましたが、本作ではストーリーの主要な部分が、セリフや状況の説明などではなく、全てダンスで描かれているのが素晴らしい!

最初のデートでルビーをクラブ(サルサバー)に誘ったラファエルは、ルビーが初めての場に戸惑い中座している間に、他の女性と楽しそうに踊り始めてしまいます。そんなラファエルにルビーは怒って帰ってしまう。サルサバーっていうのは、相手を変えながら誰とでも踊るものなんだけど、ルビーの中にそんな常識はありませんからね。

そして二人が仲直りして距離が近づくのも偶然出くわした結婚式でのダンスだし、次のデートでは再び1回目と同じクラブに繰り出します。

このシーンがとっても素敵!

私が本作の中で一番好きだと言っても過言ではないシーンです。最初のデートでルビーはラファエルに競技ダンス形式でステップを教えようとしますが、このシーンでは対照的にラファエルのリードと音楽に身を任せます。のみならず、どんどん相手を変えながら踊ったり女性だけのシャインを踊ったりするなど、とにかくメッチャ楽しいの一言!

ルビーが最後のコンペのフロア上でラファルへの想いを実感するシーンでも、リーダー(またこのリーダーのクズっぷりがいい感じ笑)とラファエルがオーバーラップしたり、ダンスパーティーでリーダーたちが無視されてルビーとラファエルの二人に観衆の視線が釘付けになったり。ルビーのシングルマザー問題はどうするんだっていうのも、この二人は息子を挟んで愛し合うんだろうなというのが、全て余計なセリフなしでダンスを通して表現されています。

これだけネタバラシしても、本作のダンスシーンや本作自体の魅力は少しも損なわれることがありません。ぜひご覧ください。

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