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コラム今夜ロマンス劇場で

第30話今夜ロマンス劇場で

2020/05/25


5月16日夜21時から地上波初登場の「今夜ロマンス劇場で」ご覧になりましたか?実は、ちょこっと社交ダンスのダンサーが登場したシーンがあったこと、気付いたでしょうか?
浜辺で美雪と健司が布を介して手をつなぐシーンは、ソーシャルディスタンスを守って生活しなければならない今のご時世には殊更に胸を打つものがありました。『祖父が倒れても手を貸さない孫』の意味が分かった時、相手に触れずに愛し合う2人の姿がとても愛おしくなります。



あらすじ




映画監督を夢見る青年・健司の前に現れた一人の女性。彼女の正体は、彼がずっと憧れていた映画の中のお姫様、美雪だった。いきなりスクリーンから飛び出してきた憧れのヒロインを目の前に戸惑いながらも、モノクロの世界しか知らない彼女にカラフルな現実世界を案内する健司。次第に惹かれ合っていく二人だったが、美雪には健司の愛を受け入れることができない秘密があった。それは、人の温もりに触れると消えてしまうこと……。
モノクロ映画のヒロインと現実世界に生きる青年。”逢いたい”気持ちが奇跡を起こし、出会うはずのなかった二人が出会い惹かれあっていく。二人の恋の行方は……
©2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会



映画の中で映画を作る


プロデューサーの稲葉直人さんが、約9年も構想を温めていたという本作。ちょっと温め過ぎな気もしますが、この映画のためだけに作られた完全オリジナルストーリーです。稲葉さんが映画『ハッピーフライト』(08年)で綾瀬はるかさんと一緒に仕事をした時に、コメディエンヌとしての才能もあり、凛とした佇まいを持ち合わせる彼女の魅力を最大限に引き出せる作品を考え、“お姫様のラブストーリー”が面白いのではないかと思ったのがはじまりとのこと。9年という歳月に、漫画や小説などの原作ものが多い昨今の邦画業界の中で、オリジナルを作るのがどれだけ大変なのかという背景をちらりと感じます。綾瀬はるかさん主演じゃなかったら、実現しなかったかもね。

邦画で西洋のドレス着たお姫様の映画ってあったっけ?と思って「邦画、姫」「映画、姫」などで検索してみましたが、「もののけ姫」と「海月姫」と「ひるね姫」しか出てきませんでした。「ひるね姫」って私、見たことないんですけど、ずっと昼寝をしているお姫様の話なんでしょうか。うらましいと思いつつ、ストーリー展開をどう進めていくのか個人的に気になりました。

もとい。

本作の時代設定は昭和35年頃。日本が高度経済成長期の真っ最中で、作り手の“熱量”が映画のスクリーン全体に息づいています。そんな消えてしまった何万本もの映画に捧げるレクイエム的な要素を入れたいと、過去作へのオマージュが多数見受けられました。時代と共に映画産業が斜陽に傾くまでの最中で、美雪と健司の絆が深まっていく様子が後半で切なく描かれ、年配になってからの健司は加藤剛さんが演じて彼の遺作となりました。


加藤剛さん



現実世界の中で生きるお姫様を演じる綾瀬はるかさんが着用した衣装は、なんと25種類!



衣装には、並ならぬこだわりを持つ社交ダンスファンにはたまりません。綾瀬はるかさんと彼女のファッションを楽しむ映画、と言っても過言ではないと思います。可愛いは正義!
男性のファッションもめちゃ可愛くて、健司の衣装は60年代の実際の撮影現場の写真を参考にしました。当時の撮影スタッフはネクタイを締めたタイドアップが定番で、かっちりとしたジャケットスーツを着て、革靴も履いていたそう。健司を演じた坂口健太郎さんはこの衣装がとても気に入って、撮影後に持ち帰ったそうです。




美雪の衣装で印象的だったモノクロ世界のお姫様のドレスは、ローマの休日のオードリーヘップバーンを彷彿させました。手の届かないお姫様との恋や、冒頭で美雪が舞踏会に飽き飽きしてお城を抜け出すシーンもそのまんまですね。



ローマの休日の他にも、映画の中で映画を作る本作の中で随所に見られるオマージュは数え切れません。まず、題名は『今宵、フィッツジェラルド劇場で』のオマージュですね。
忘れ去られた古い映画の中からヒロインが現実世界へ出てくるという設定は、『キートンの探偵学入門』からヒントを得てウディ・アレンが『カイロの紫のバラ』を作ったクダリをアレンジ。
古い映画館を舞台にする設定は『ニュー・シネマ・パラダイス』、気の強い女性キャラクターは『猟奇的な彼女』。壮大なサンドイッチ回想で、出演者全員に祝福されるラストは『タイタニック』。色のない主人公が色を取り戻していく様子は、ゲイリー・ロス監督&主演トビー・マグワイアの名作『カラー・オブ・ハート』などなど……さまざまな映画のエッセンスが取り入れられているのも見どころの一つです。

こんなところまで!?というこだわりも細部まで見られて、撮影所や健司が務める映画館ではあちこちに映画のポスターが貼ってあるんですけど、北村一輝さん演じる映画スター俊藤龍之介の出演作のポスターがすごい!




これは若大将シリーズ。




こっちは黒頭巾か紫頭巾かな……?
北村一輝さんは、俊藤龍之介の役をノリノリで演じてくれたとか。女ったらしで、俺はスター感全開のファンキーな役ですけれども、
「男が簡単に下を向くな
男の視線は常に未来
好きな女との未来を見つめて生きるものさ
下を向いてたら今しか見えないぜ」
……と、健司の背中を押して、前半のコメディと後半の切ないラブストーリーを切り替えてくれる存在でした。
プロデューサーの稲葉さんからオファーを受け、本作のメガフォンをとった武内英樹監督は、『テルマエ・ロマエ』シリーズでも北村一輝さんとご一緒していますね。テレビシリーズから映画まで手掛けた『のだめカンタービレ』などですっかりコメディ監督のイメージがついていましたが、本作でロマンティックなラブストーリーを手がけ、作品の幅が広がったようです。





過去作のオマージュといえば、『また逢う日まで』のこのシーンも外せませんね。当時このシーンは一世を風靡し、本作でもお互いに触れられない恋を盛り上げていました。
ひとつの映画が廃棄されていく刹那や、坂口健太郎さんが演じる映画青年・健司の「どんな映画にも良いところが必ずある」というセリフに、映画という媒体への強いこだわりを感じます。
過去作をアレンジして作品の中に取り入れる作業は、さぞかし楽しいだろうなあ。羨ましい……




そんな「神は細部に宿る」を体現した本作、冒頭とラストに舞踏会のシーンが登場します(予告編では0:02あたりにちょこっとだけ)。実際の映画でも踊っているのはほんの短い時間ですが、プロの社交ダンスのダンサーが集められました。短いシーンだからといって急場凌ぎではなく、本物を使いたいという制作サイドの意向が感じられますね。
冒頭では、モノクロで退屈そうだった舞踏会のシーンが、ラストでは対比的に描かれます。美雪と健司の愛は叶ったのか?健司の映画監督になるという夢は潰えてしまったのか……?
映画のメッセージがぎゅっと詰まった大切な場面に、社交ダンスが花を添えています。分かって見てみると、結構しっかり映っているダンサーも!
ぜひ次の機会には、そんなところにも注目して見てくださいね。