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コラム古畑任三郎ファイナル ラスト・ダンス

第42話古畑任三郎ファイナル ラスト・ダンス

2021/05/25

フジテレビは4月3日に亡くなった俳優・田村正和さん(77)を偲び、追悼特番『古畑任三郎』を5月20、5月21日の二夜連続で放映しました。

あらすじ



テレビ局の廊下を颯爽と歩く加賀美京子こと大野かえで(松嶋菜々子)。すれ違うスタッフは皆一様に売れっ子の作家であるかえでに挨拶する。かえでが手がけた連続ドラマの完成披露試写が行われ、作品の出来に満足の様子である。打ち上げ会場。大勢の関係者の中、壇上でスピーチするかえで。派手目なメイク、女優を思わせるような衣装。社交的な彼女はいつも華やかなスポットライトを浴びている。
高級マンションの一室、パソコンの前でキーボードをたたくもみじ(松嶋菜々子=2役)。化粧もせず、地味な装いの彼女はかえでの双子の姉であり、もう一人の加賀美京子。外出も滅多にせず不器用で、妹のかえでとは大違い。
カフェテラス。ダンスの教本を手に座っている男はご存知・古畑任三郎(田村正和)。車が止まり、駆け寄るかえで。古畑は、かえでが手がけた連続ドラマの監修として以前からかえでと面識があり、次回作の打ち合わせに来ていたのだった。古畑はかえでの魅力にすっかりとりこになっているようだ。実は打ち上げの日、2人はダンスホールへと抜け駆けしていたのだ。チークダンスを踊る2人、華麗に踊るかえで、慣れないステップの古畑、つい足を踏んでしまう…。バランスを崩すかえで。そして抱き合ったままの2人-。急に姉・もみじに呼び出され、早々に店を去るかえで。戻りを待つ古畑だったが、このときすでに彼女の計画は実行されていたのだった…
© フジテレビ



ラスト・ダンスが本当にラストダンスすぎる展開



今回取り上げたラスト・ダンスはタイトルの通り古畑任三郎シリーズの最後を飾った『新春ドラマスペシャル 古畑任三郎ファイナル』のうち2編で、放映は2006年1月でした。今からもう15年も前ですって〜。当時リアルタイムで見ていたはずだし、既にダンスをやっていたはずなのに、ダンスが犯人を特定する鍵になっていたのは覚えていても、どう明らかにするかについては記憶がかなり曖昧になっていました。

一応、本コラムは『ダンス探訪』なのでダンスに関して言うと、私だったら古畑がダンスできない人ではなく、実はダンスが堪能な人にしたと思いますね。そこまで犯人に度胸がなかったと言えばそれまでだけど(確かに彼女はそういうキャラだけど)、チークダンスだったら相手に身を委ねて音楽に乗れば誤魔化せたと思う。それより、古畑があんな感じなのに実はすっごく踊れて、犯人がどうにかこうにか合わせる体で踊ったのに、
「これだけのステップでも踊れるかどうかは組んだ瞬間に分かるんですよ…」
と言うほうがかっこ良くない?妄想しすぎ?

ともあれ、通常のミステリーでは犯人・動機・手口などが伏せられ、事件を解決する探偵や刑事の視点で物語が進みますが、対して倒叙ミステリーでは最初から犯人がわかった状態で進みますよね。古畑任三郎シリーズの脚本家、三谷幸喜さんは倒叙ミステリーの代表作「刑事コロンボ」の大ファンで、「構想の四角」をオマージュしてこちらの作品を書いたのは有名な話。おかげでいつも苦心しているネタバレに関して、今回はそれほど気にせずレポートできるというわけです。

構想の四角が元ネタだと分かってみると、今回の犯人の手口は割とあっさり分かってしまっただろうなと思います。犯人と被害者が双子の設定だったり、黄色のコートだったり、何度もインサートされる水槽のイメージだったり、ヒントはこれ見よがしに出てくるわけですしね。でも、三谷幸喜さんほどの脚本家がそれを恐れたとは思えません。

どうも地域によってはカットされたようなのですが、冒頭のアバンタイトルのセリフに全てが凝縮されていたように思います。
「これまで何人の殺人犯を逮捕したことでしょうか。中には女性の犯人もいました。その誰もが美しく、そして誰もが哀しみを秘めていました。最後の犯人はその中でも特に美しく、そして特に哀しい女性」
その犯人の一人は第一シリーズの小石川ちなみで、演じたのは中森明菜さん。職業は脚本家ではなく、コミック作家(漫画家と呼ばれることを嫌う)。今回のかえでやもみじと共通項があるように設定されています。ちなみも生きづらさを抱え、キャラクターの書き分けを苦手としている点を古畑に指摘されていました。古畑によって殺人を暴かれ、逮捕されたものの、その後、裁判で無罪を勝ち取り幸せに暮らしています。

今回の松嶋菜々子さん演じる犯人も、才能に恵まれながらもう一人の相棒を羨み、そうなりたいと願い、一瞬その栄光を味わうも、相棒のようには生きられないことを痛感して逮捕に至ります。その哀しさの最たるシーンで古畑と踊るのがラスト・ダンスでした。

さすが田村正和さんと松嶋菜々子さん、立っているだけで哀しく、美しい。




その他にも、シーズン3に被害者役で出演した小日向さんが劇中劇の「鬼警部ブルガリ三四郎」で登場して、ちゃんと古畑をオマージュした役になっていたり。ストーリー自体も古畑本人をアリバイ作りに利用したり、今泉が走って検証したりと、これまでのシーズンの踏襲した集大成のようなファイナルになっていました。田村正和さんのご冥福を心からお祈りいたします。