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コラムその女、ジルバ

第38話その女、ジルバ

2021/01/25

有間しのぶさんの漫画「その女、ジルバ」がTVドラマ化して地上波で放映中です。主演の池脇千鶴さんが連ドラで主演を務めるのは9年ぶりだそう。さえない独身40歳への変貌ぶりに「あの池脇千鶴が!」と一時SNSが騒然としました。

あらすじ



笛吹新(池脇千鶴)、40歳。憧れだったアパレル会社の販売員として働いていたが、結婚直前で婚約者に裏切られ破談となった上、リストラで倉庫勤務に回されてしまい、お先真っ暗。夢なし、貯金なし、恋人なし…私の人生、こんな感じで終わってくの?
ストレスまみれの帰り道、新は偶然、一軒のレトロなバー『OLD JACK&ROSE』の張り紙を見つける。
“ホステス求む!時給2000円 未経験者歓迎 年齢40歳以上”
40歳…以上?以上!?
「絶対ウソだ。ワナに決まってる。時給2000円?無理、ホステスなんて。でも家に帰ってゆっくり考えたら絶対あきらめる…今ここで新しい何かをしないと…私は、私の人生を、嫌いになってしまう!」
新は思い切って、店の扉を開ける…!!
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女は40から、捨てていいのは操と過去だけ


第1話で登場した笛吹新を演じる池脇千鶴さんにギョッとしたのは、もちろん私だけではありませんよね。池脇千鶴さんは新と同年代でありながら、とても可愛らしい女優さんです。それが、法令線が下り、目元にはクッキリとしたクマとシワ。自信なさげで丸まった背中と、とぼとぼとした情けない歩き方。何より、覇気がなく虚な表情。これが池脇千鶴さんかとSNSは騒然としていました。もちろん役作りのためにわざとそう変貌しているわけですが、
「池脇千鶴っていつの間にこんなんなってたの!?」
とリアルに勘違いした人もいたようです。いや〜、役者さんってすごい。

女性の40代って微妙な年齢ですよね。
ただでさえ「恋人は?」「結婚は?」「子どもは?」と周囲は喧しい。
子どもがいたらいたで「二人目は?」「母親らしくしろ」。
仕事があれば家庭との両立が重くのしかかってくる…安住の地はどこに?
40代になると先が見え、自分で自分を諦め、呪いの言葉の数々で自分を縛るようになる…新自身、40歳を目前に婚約破棄され、仕事も崖っぷち。そんな呪いに陥っている最中で出会ったのが『OLD JACK&ROSE』でした。

店のホステスたちやお客さんに感化され、新が輝き出したシーンで踊るのが『ジルバ』です。一応、社交ダンスを知らない方のために説明すると、ジルバは社交ダンスの入門編と言えるパーティーダンスの一つで、競技の種目ではありません。簡単なステップで音楽のリズムに乗る楽しさを味わうことができるので、こういったお店やパーティーのダンスタイムでブルースと並んでよく踊られます。

OLD JACK&ROSEで設けられているダンスタイムはお店の名物になっていて、みんな本当に楽しそう。運動が苦手で初めは抵抗感のあった新も、第2話で特訓を受け、キラキラと踊り出します。




以来、それまで着る事のなかったワンピースを通勤に着ていき、髪型を変え、前園が思わず「可愛い……」と呟いてしまう変身ぶり。それが職場の同僚たちに「ホスト通いしてる!?」と勘違いを生んで、物語は進んでいきます。

新のジルバの相手を務めた一人が、芋洗坂係長演じる花山。芋洗坂係長って、高校時代からチームを組んでダンサーだったんですよね。中森明菜さんのバックダンサーなんかもやっていたとか。さすが、お上手ですねえ。




草村礼子さん演じる菊子は、もちろん映画『Shall we ダンス?』のたま子先生でお馴染み。2005年からは社交ダンスを活かしたボランティア活動を行い、車椅子や座ったままでも音楽に乗って体を動かす楽しさを普及しています。

草笛光子さんは言わずと知れた、松竹歌劇団出身で日本ミュージカルのパイオニア。原作漫画のくじらママはもうちょっと素朴な感じですが、迫力のある美貌と観察眼でホステスとお客さんを見守っています。3話目の詐欺師とエリーの会話を見守るシーンでは、全てを見透かす視線に圧倒されましたよね!漫画原作って、実写でどこまで漫画に近づけるかが一つの大きな難しさだと思いますが、この作品では必ずしも原作に100%寄せていないのに、原作のキャラたちに見えるような気がします。くじらママは、だいぶ綺麗だけど正しくクジラママ!




久本雅美さん演じるナマコと垣義明さん演じる滝口の組み合わせを見た時は、
「ああ、はいはい。マチャミね。ワハハ本舗的な演出とか入れちゃうのね?」
と思って見ていましたが、コントまで繰り広げているのに、原作の気のいいクジラママの手下、ちゃんとナマコに見える!




余談ですが、衣装提供はgentilさんだそうですよ〜。

くじらママをはじめとする素敵なキャストが新を見守り、「女は40から」「捨てていいのは操と過去だけ」「これからの大切な人生を命ある限り、生きていきましょう」といった前向きな魔法のような言葉たち。ジルバのリズムを心から楽しむ新の姿に、私自身の心もスーッと軽くなっていったような気がします。

何しろこのドラマ、新の周囲に悪い人がいない(まあ、前園や詐欺師はいるけど)。みんな苦労人で、人の気持ちが分かる優しい人ばかりで現代ではファンタジーかもしれません。一方でリアルな問題が何も解決するわけでなく、それらを抱えながら彼女たちは人生を歩んでいます。会社にはリストラの嵐が吹き荒れ、ホステスたちだっていつか天涯孤独で生き倒れるのかもしれない。でも、もしかしたらこれからは、こうして他人同士で支え合って生きていく世の中になるのかもしれない。閉塞感に満ちた今のご時世に、そんな希望を見出せる優しい気持ちになれるドラマです。

社交ダンス自体がテーマというわけではないけれども、ダンスとの出会いで日常が煌めいていく様子も魅力の一つ。今までの社交ダンスを扱った作品は競技ダンスが舞台になることが多かったですが、日常を彩るジルバを描くっていうのも素敵ですよね。初回の平均視聴率は「大人の土ドラ」枠で最高視聴率を記録したそうです。今後もどんな展開になるのか?ジルバはドラマの中でどんな風に生かされていくのか?続きがますます楽しみです。

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