おどりびよりロゴ

 

コラムダンス・ダンス・ダンスール

第39話ダンス・ダンス・ダンスール

2021/02/25

再びの緊急事態宣言発令の最中、皆様いかがお過ごしでしょうか。筆者はサウンドバーとKindleFireTVのおかげで、そこそこ楽しく巣ごもり生活を送っています。そのせいかここのところ、映画やテレビドラマなど映像作品ばかりご紹介してきたような気がします。本日は久しぶりに漫画の探訪です。

あらすじ



主人公・村尾潤平は中学二年生。幼い頃にバレエに魅了されるも、父の死をきっかけに「男らしくならねば」とその道を諦める。バレエへの未練を隠しながら格闘技・ジークンドーを習い、クラスの人気者となった潤平だが、彼の前に、ある日転校生の美少女・五代都が現れる。母親がバレエスタジオを経営する都に、バレエへの興味を見抜かれ、一緒にやろうよと誘われるが――!?
© 小学館



依然として男子にはハードルが高いダンス界


バレエの漫画の名作はSWANやアラベスクなど数々ありますが、これまでのふわっとした絵柄の少女漫画のイメージからすると、異色の作品と言えると思います。絵柄も緻密というよりはスピード感のある線で、内容も少年漫画っぽい。何より、これまでバレエといえば当たり前のように主人公は女の子だったのが、ダンス・ダンス・ダンスールの主人公は男の子です。

これを読んで筆者が最初に思い浮かべたのは、アマチュアダンス仲間の息子くんでした。お父さんとお母さんが踊っているのを見るうちに「一人でできるダンスがやりたい」と言ってバレエ教室に通うようになったんですよね。そうか……ペアダンスはイヤだったのか(笑)。

小さい頃は男の子がバレエなんて、いじめられたりしないんだろうかと潤平よろしくヤキモキしたこともありましたが、そのことが彼のキャラになってみんなの人気者になっているらしい。ちょいちょい動画を見せてくれて、見るたびに上達していきます。いまや必修となっているヒップホップのクラスでは、バレエの基礎があるおかげでいつも見本になっていたそうです。

ところがどっこい、順平のように「男だから」という理由でダメ出しされたわけではなく、むしろ周囲から温かく受け入れられていたにも関わらず、
「男がずっとやるようなことじゃないから」
と進学を機に自主的に辞めてしまいました。今はバスケットボールに夢中だそうです。トホホ。

ま、いいんですけどね、本人がやりたいことをやって楽しく暮らしているなら。

でも「バレエなんか」と口では言うのに、影でピルエットを練習してみたり熊川哲也のバジルの真似をしてみたりする潤平を見ていると、件の息子くんもそういうことがあったのかなあなどと思いを馳せたくもなります。息子くんがこのダンス・ダンス・ダンスールを読んだらどう思うのでしょう。

斯様に男性にとっては、やはりダンスの世界はまだハードルが高いものなのだなと感じられる漫画です。社交ダンスだって、愛好家の絶対数は圧倒的に女性の方が多く、ジュブナイルやジュニアの選手も女子同士のカップルが多数。ジュニアの年齢を超えてしまうと相手が見つからないのがあるあるだったりします。それを扱った映画が本コラムでも取り上げられた「レディ・トゥ・レディ」でしたよね。しかも社交ダンスの場合、男性はリードをしなければならない分、最初のハードルは尚のこと高い。一定のレベルまで来れば難易度はそう変わらないと私は思っているのですが、スタートダッシュは女性に分があるよなあと常々感じます。

バレエは女子も男子も基本はほぼ同じですが、飛んだり回ったり身体能力が物を言う分、大化けする子は男子の方が多いような気がします。潤平もそんな一人で、遅くに始めたことが貪欲さに繋がって、紆余曲折ありながらも高みへと突き進んでいきます。
「こんな遅くにはじめて留学なんてありえない」
というようなレビューがあるのも見ましたが、比較的遅い年齢から始めた男子が大成するというのは、ことバレエに関してはありえない話ではないようです。




最新刊の19巻ではYAGP終了後、潤平は生川バレエ学校を飛び出しN.Yに残ります。追いかけ続けた運命のダンサーブランコは何も指導してくれず時間だけが過ぎて行き、ビザの問題で先行きを早々に決める必要に迫られます。けれど、もともと楽観的な潤平はあまり危機感を感じておらず、周囲の方がヤキモキ。N.Y滞在の資金をストリートパフォーマンスで稼ごうとするも思わぬトラブルに巻き込まれ、見かねたブランコが自分の元スポンサーだった人物を紹介します。スポンサードを受けるために出された条件に応じるため、ブランコは潤平にある演目を指導することに──

なにせ潤平の運命の人であるブランコと再会して、とうとうブランコに弟子入りできるかどうかの瀬戸際で起きた在留問題。起きた、というか何も準備せずに飛び出していった潤平には必然的に起きうることなんですけど。資金問題を解決するために潤平が踊ることになった演目が、とても曲者。クラシックバレエを少しでも見たことがある人なら、知らない人はいない名作であり難解な作品です。私、この演目を見ると男の方をぶん殴りたくなるんですよね〜。潤平はこれまで数々の作品に向き合ってきましたが、これまでとは毛色の違った作品であることは間違いありません。ブランコと一緒に丁寧向き合っていく様は、ダンス愛好家にとっては見所満載です。ああ、続刊が待ち遠しい〜!