2019/12/5
社交ダンスの若きチャンピオン、スコット・ヘイスティングは、ダンス連盟の規定を無視して、ダンス選手権地区大会で、自ら考案した新しいステップに挑戦する。観客たちの反応とは裏腹に連盟はそれを許さず、優勝はライバルの手に。パートナーのリズは去り、汎太平洋グランプリを勝ち取ろうというスコットの夢は危機を迎える。
スコットは、まだ初心者だが目ざましい上達を見せ、彼にラテンステップを教えてくれたフランを新しいパートナーに迎え、ラテンのダンスを取り入れた新しいステップを大会で披露して、観客たちの熱狂的な支持を得る。しかし連盟会長のバリーの横槍で、音楽を止められてしまう。沈黙が場内を漂う。スコットとフランの運命はどうなる……?
©︎ ミラマックス・フィルムズ
あらすじ ©︎ KINETONE
ダンシングヒーロといっても、こっちではございません。
いや、荻野目洋子さんのダンシングヒーロー素敵ですけれども。登美ヶ丘高校さんのバブリーダンス素敵ですけれども。
本コラムの「ダンシングヒーロー」は、第9回で取り上げた「ダーティーダンシング」とほぼ同世代。1992年代オーストラリア製作の映画です。ダーティーダンシングが1987年ですから、5年後くらいになりますね。
ダンシングヒーローが女心をくすぐるのは、何と言っても初心者のフランが、もう少しでチャンピオンに手も届くかというスコットのパートナーになるというシンデレラストーリーです。そんなこと有り得る?と思うでしょ。しかも、映画冒頭のフランはクッソダサいんです(失礼)。
それが、社交ダンス界隈では現実にあるんですね。
私が印象深いのは、元JBDFファイナリスト立石勝也・裕美組。勝也先生がトッププロ選手として大成後、改めて裕美先生とカップルを結成したわけですが、その当時、裕美先生は社交ダンスなどやったことがない、なんのこっちゃわからない美容師さんでありました。勝也先生の猛アプローチでカップルを結成しましたが、
「ダンスシューズ履いたのも初めて」
「なんで私がダンスやらなあかんの?」
と当初は思っていたそうです。
最近では、同JBDFグランドファイナリスト廣島悠仁・石渡ありさ組。2019年でバルカーカップにおいて初のファイナル入り、海外でも躍進著しいお二人は、廣島選手がトップアマとして活躍している際に、初心者のありさ先生を見初めてカップルを結成しました。
「どうして彼女?とわざわざ言いに来る人までいた」(廣島選手)
「カップル結成当初は(技術的なレベル差が大きくて)泣くのが日課だった」(石渡選手)
というお二人も、今や押しも押されぬトップ選手です。
斯様にダンスの世界は、現代のシンデレラストーリーが成立しうるのが大きな魅力。特にフランは、連盟の規定でオリジナリティを出せないことに悩んでいたスコットに、インスピレーションを与えた重要な存在です。スコットと組んでから、フランはみるみるうちに綺麗になっていきます。
少女漫画で眼鏡を取ったら、ブサイクが美人になるのは王道でベタすぎるくらいベタな展開。でも、ダンスはそこにリアリティをもたらします。だって、フランは実際にラストで素晴らしいダンスをスコットと共に踊りますからね!ダンスを題材にするからこそ、王道で奇跡の美化はかくも成立するのです。
何しろ1990年代という古い名画です。動画は抜粋しか見当たらないので、やはり映画でフルバージョンを見ることをお勧めします。とりあえず抜粋でも見たいという方は原題の「Strictly Dance」で検索すべし。「ダンシングヒーロー」で検索すると、荻野目洋子さんと登美ヶ丘高校さんばかりが出てきます(笑)。
後にデカプリオ主演で話題になった「ロミオとジュリエット」を監督したバズ・ラーマンは、社交ダンスをめぐる人間模様を丁寧に描いています。連盟との利害関係、ダンススクールを経営する母親と、一見グータラながら息子に夢を託した父親。このお父さんは、もう1人のダンシングヒーローの主役かもしれません。時にシビアな言動で息子と確執を抱え、それがラストのダンスで一気に和解へと向かいます。
主演のポール・マーキュリオはオーストラリアのダンサー一家の出身で、体つきはラテンダンサーにしては華奢なものの、表現力豊かに自由を希求するダンサーを演じました。親の期待に応えて大会の規定に沿ったステップで踊るか、それとも自分らしいダンスを追求するかの葛藤……それが大会の会長の妨害にめげず、周囲の人の助けで、スコットが選択した踊りがスカッとラストに向かって爽快に花開きます。
ちなみにこの会長のハリーさん、アメリカ大統領のトランプさんにソックリ。見事な悪人ヅラで映画に笑いを添えて……おっと、失礼。
スコットが登場するシーンで、第一ハイライト終わってるやーん!とか、妨害と戦うスコットの味方の皆さんとの攻防がちょいちょいインサートされ、危機感の中にクスッと笑いを誘います。
ちなみに日本語吹き替えでスコットの声を当てているのは、若き日の森川智之氏。「ボールルームへようこそ」で、トッププロであり主人公たちの目標である仙石要の声を担当することになったのは、運命のいたずらかもしれません。
初演の時点と、現在販売されているDVDでは日本語字幕を担当しているところが変わっているので、古くからのファンは違和感があるかもしれません。普段字幕派の方でも、ボルルムファンなら吹き替えもオススメです。