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コラムダンサーそして私たちは踊った

第23話ダンサーそして私たちは踊った

2019/11/25

あらすじ





ジョージアの国立舞踊団で、幼少期からダンスパートナーのマリとトレーニングを積んできたメラブ。日中のハードな練習の後はレストランでのアルバイトで家計を一手に引き受け、気持ちの休まる暇もない。そんなある日、カリスマ的な魅力のダンサー、イラクリが入団し、同時にメイン団の欠員補充のためのオーディションの開催が知らされる。イラクリの持つダンスの才能に驚き芽生えたライバル心が、オーディションに向けての2人だけの特訓を経て、憧れと抗えない欲望へと変化していく──
©︎ French Quarter Film / Takes Film / Ama Productions / RMV Film / Inland Film 2019 all rights reserved.
あらすじ ©︎ Fashion-press.net



シネマート新宿&心斎橋で開催される劇場発信型映画祭「のむコレ3」内にて、2019年12月11日(水)より順次上映される本作を、試写会で見てきました。



日本ではあまり知られていないジョージアと、その伝統舞踊であるジョージアンダンスの国立舞踊団を舞台に、主人公のメラブと、型破りでカリスマ的な魅力に溢れたライバル、イラクリの関係性に焦点を当てた激しい人間ドラマです。
何しろ、ウィキペディアにジョージアの項目はあっても、ジョージアンダンスの解説らしきものはどこにも見当たらないという、社交ダンス以上のマイナーさでした笑。

もう一つこの映画の根底に流れるテーマは、「同性の恋」。今でこそ日本ではリアル10DANCEなどの漫画・イベントで徐々に認知されてきていますが、状況が違えばこうも受け止め方は違うものかと驚かされます。

ジョージアへのラブレター





ジョージアは南コーカサスにある共和制国家で、首都はトビリシ。旧ソ連に属していましたが、1991年に独立しました。
本作のテーマの一つは「同性の恋」ですが、残念ながら、ジョージアは独立後もホモフォビア(同性愛嫌悪者)の多い国なのだそうです。理由の一つは、同性愛を犯罪として明文化した悪名高き刑法121条を制定したソ連に属していたこと。また、ジョージ自体の国内最大の宗教が、保守的な「ジョージア正教会」であることも一因です。

一例を挙げれば、2013年、グルジアで初めてGayプライドパレードが行われましたが、参加者20~30人のごく小さなパレードを100人単位の宗教的暴徒が襲いました。
また2016年には「The Free Exercise Protection Act」という法案が審議されました。信仰を理由に同性愛者へのビジネスサービスや、聖職者が婚姻を挙げることを拒否してもよいとするこの法案に、ジョージアへの撮影誘致を受けていたディズニーなどの大手スタジオ、俳優、映画監督、プロデューサーといったエンタテインメント業界の人々が次々に抗議し廃案となっています。

これが過去のことと切り捨てることのできないのは、同性同士の恋愛を描いた本作が「ジョージアとキリスト教の価値を貶める」として、正教会が上映中止を求める声明を発表。右翼部隊が上映に抗議し映画館に突入しようとするなど、ジョージアで空前の騒動となったのです。

一方で、本作は2019年のカンヌ国際映画祭でのプレミア上映を皮切りに各国で高い評価を獲得しているほか、第92回アカデミー賞国際長編映画賞部門スウェーデン代表に選出されるなど、各方面から高い注目を集めています。
自身も、ジョージアにルーツを持つレヴァン・アキン監督は、本作は「ジョージアへのラブレター」と述べています。

政治的には、ジョージアの悲願はEU加盟。加盟条件とする社会環境を達成することが求められています。条件において重要な要件である、民主主義、市場経済、環境保護などと並んで重視されるのは人権であり、その中にはLGBTの人権も含まれます。
エモーショナルな本作が認められ、見せかけでない中身の伴った人権主義に、本作が貢献すると良いのですが……でも、これは日本も同じような状況ですね。

インスタグラムでスカウト!





ジョージアンダンスはジョージアにおける伝統舞踊の一つです。
2015年まで旧国名がグルジアであったことから、グルジアンダンスとも呼ばれています。ジョージアの結婚式では、当日ジョージアンダンスを披露するのが習わしだそうです。

その踊りと音楽は、15種類以上。ジョージアの各地方で踊りと音楽が誕生したために、種類が豊富になりました。社交ダンスで、10ダンス以上の種目に分化していったのと似た趣がありますね。
日本での認知度はまだ低く、プロのダンサーや舞台関係者でも知っている人はごくわずかで、ロシアのコサックダンスと勘違いされてしまうのがジョージアンダンス関係者の悩みなのだそうです。



ジョージアには『Erisioni』エリシオニ、『Sukhishvili』スヒシュビリ、『Rustavi』ルスタビの3つの国立部油断がありますが、中でもルスタビは積極的にバレエの要素を取り入れ、時代の流れとともに「Georgian National Ballet」というカンパニー名に変更しています。
時流に合わせてダンスをより進化させ、マイナージャンルからの脱却を図り、認知度を上げていきたいという思いには、社交ダンスに携わるものとして共感する部分がありますね。

そんなジョージアンダンサーとして主役のメラブを演じたのは、コンテンポラリーダンサーとしてジョージアで活躍する21歳のレヴァン・ゲルバヒアニ。本作が俳優デビューとなります。なんとインスタグラムを通じてアキン監督にスカウトされたのだそうです!
野心と情熱を迸らせたダンスシーンに加え、現実にもがきながらも根底にある純真さ、あどけなさを見せる演技が高く評価され、オデッサ国際映画祭やサラエボ国際映画祭で主演男優賞を獲得するなど高い評価を得ています。
「ダンサーを扱う映像作品には、本物のダンサーを!」
これが体現されているようで、嬉しいキャスティングです。

12月11日から公開の本作、ぜひ映画館へ足をお運びください!