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コラムShall we dance?(洋画)前編

第16話Shall we dance?(洋画)前編

2019/08/5

あらすじ



遺言書作成を専門とするシカゴの弁護士ジョン。妻と娘と幸せに暮らしていたが、同じ日々の繰り返しに虚しさを募らせていた。そんなある日、通勤電車から外を眺めていたジョンは、社交ダンス教室の窓辺でぼんやり立つ女性ポリーナに目を留める。彼女のことが気になったジョンは、途中下車して教室へ足を踏み入れる。成り行きで入門クラスに参加することになったジョンだが、いつしかダンスの楽しさに目覚めて大会出場を目指す。
配給・画像 ©ミラマックス/ギャガ
あらすじ ©ザ・シネマ



周防正行監督「Shall we ダンス?」ハリウッド版リメイク



1996年に公開された周防正行監督の「Shall we ダンス?」を、ハリウッドでシカゴなどを製作したチームが2004年にリメイクして公開したものです(日本版については当コラム第1回参照)。
実は、2004年の公開当時は、筆者が日本版を好きすぎて違和感がたっぷりあったのですが……あれ、最近見直してみると、そうでもない?気軽に楽しめるコメディとして、これはこれで良かったような気がします。

日本版ポスターのキャッチコピーは「もう一度、人生に恋してみよう」。
ハリウッド版のキャッチコピーは「幸せに飽きたらダンスを習おう」。





日本版は、人生に疲れた中年サラリーマンの杉山が、もう一度ダンスによって人生を取り戻す話。その中で、見失いつつあった家族の絆も取り戻していきます。
ハリウッド版の方は、今、幸せで満たされてはいるけれど、満たされたがゆえに退屈した男が、人生に彩りを取り戻す話。
設定やテーマなど、両者の違いが如実に現れているコピーです。

キャスティングもゴージャス!
日本版キャストと比較してみましょう。

ジョン・クラーク(リチャード・ギア):杉山正平(役所広司)
ポリーナ(ジェニファー・ロペス):岸川舞(草刈民代)
ビヴァリー・クラーク(スーザン・サランドン):杉山昌子(原日出子)
ボビー(リサ・アン・ウォルター):高橋豊子(渡辺えり子)
リンク・ピーターソン(スタンリー・トゥッチ):青木富夫(竹中直人)
ミス・ミッツィー(アニタ・ジレット): 田村たま子(草村礼子)

とはいえ、プロットは日本版にかなり忠実です。
例えば、リチャード・ギア演じるジョンは弁護士、奥さんのビヴァリーもバリバリのキャリアウーマンなので(日本版は専業主婦)、シカゴのミドルアッパーかアッパークラスに相当します。車通勤が当たり前のアメリカ社会、殊にシカゴ界隈でそのクラスのビジネスマンが、電車通勤というのはかなりレア。
ところが映画の中では、原作と同じく、ダンス教室の窓辺に佇む憂いを帯びたポリーナの姿を電車の中から見つけて、ジョンが衝動的に途中下車するシーンが忠実に盛り込まれています。この辺りは、日本版の情緒を尊重していることが感じられます。



一番の違いはビヴァリー!



一番の違いは、ジョンの妻であるビヴァリーの存在が大きくなっていること。
日本版は杉山と舞のダンスを通したプラトニックな淡い恋心があくまでも話の中心であり、奥さんの昌子は家族の絆を取り戻す上では重要な役どころではあるものの、あくまでも位置付けは脇役です。
ところが、ハリウッド版のポスターはこちら。





ジョンやポリーナと同等の紙面を割いて、ビヴァリーが登場します。
この辺りはプロテスタントをベースにした宗教観とも関係がありそうですが、アメリカの文化では一番尊重されるべきは家族。いかにプラトニックに描かれていても、妻以外の女性とのラブが中心に置かれるのは、許されざることなのでしょう。
どちらかと言うと、ポリーナとダンスを通して、ジョンが奥さんとの絆を取り戻していくことの方に比重が割かれているように感じます。

この映画で一番かっこいいシーンは、ジョンが一輪のバラを持ってエスカレーターを上がってくるところですもんね。って言うか、かっこよすぎでしょ!

ダンスを踊ってもかっこいいし、とにかくジョンがかっこよすぎる。役所広司さん演じる杉山のくたびれた渋いかっこよさとはあまりに異質すぎます(公開当時、とにかくそれが一番違和感だった←渋いオジサン好き)。

プリティウーマンもびっくりのかっこよさでしたよ……。

カメラワークについては常時3台のカメラを別の角度から回したと言うだけあって、ダンスの魅力が余すところなく伝わってきます。
音楽も世界的によく知られた名曲がふんだんに使われ、ダンスは目で見る音楽であると訴えかけてくるかのよう。目も耳も問答無用で楽しませてくれるのは、さすがハリウッドという感じでしょうか。

……と、ここまで筆者自身が原作との違いを語ってきましたが、周防監督自身はハリウッド版のリメイクについてどう思っていたのでしょうか?

実は、ご本人が語っている著書があります。
それが「『Shall we ダンス?』アメリカを行く」、「アメリカ人が作った『Shall we ダンス?』」です。




後編に続きます。