2019/10/25
ダンサーになる夢を追う女性の姿を描いた青春映画。昼は製鉄所、夜はナイトクラブのフロアダンサーとして働くアレックスは、日々プロのダンサーになることを夢みて暮らしていた。そして恋人との確執、友人の死などを経て、いよいよオーディションの日が迫ってきた……
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ダンス愛好家として、執筆させていただいている当コラム。
「ダンサーを扱う映画で吹き替えはやめてくれ」
……という主旨のことを、何度か書いてきました。首から下だけ写しても、首の向きや動かし方で、今、映像に映し出されている人が踊れるかどうかはわかっちゃうんだよね、というダンス媒体のおどりびよりさんだからこそ言いたかった主張です笑。
ところが、一本だけ吹き替えが功を奏している(と、筆者が思っている)映画がありました。それが当コラムの「フラッシュダンス」です。
今や、フラッシュダンスのダンスシーンが以下の3人のダンサーによる吹き替えであることは映画好きには常識ですが、公開当時は箝口令が敷かれていました。
・ マリン・ジャハン(バーでの踊りなど)
・ シャロン・シャピロ(元体操選手、入学試験のアレックスがジャンプする場面など)
・ クレイジー・レッグス(プロのブレイクダンサー、ラストのオーディションの場面など)
よく見れば分かるといえば分かるのですが、それでも映画やアレックスの魅力は少しも損なわれません。アレックスを演じたジェニファー・ビールス自身が魅力的であったことももちろんですが、この吹き替えにはこの映画を成立させるための必然性があったからだと思います。
前回「少年チャンプル」の回で、ストリートダンスの起源について簡単にお話ししました。前述の通り1920年代のアメリカで黒人文化から生まれ、差別や社会への反抗心や反骨精神を孕んで発展していきました。その過程で、社交ダンスに影響を与えたチャールストンなどのジャンルも派生していきます。
大きく発展するのは1970年代〜1980年代でSOUL TRAINなどのテレビ番組やフラッシュダンスなどの影響が大きいという点もお話ししました。
ですが、フラッシュダンスの頃には、まだこの手のダンスが「ブレイクダンス」という種類のものだという認識は、一般的にはなかったと言われています。ブレイクダンスが広く世の中に認知されるのは翌年のアメリカ映画「ブレイクダンス」以降なのだそうです。
つまり、フラッシュダンスのキャスティング当時、アレックスを演じられるくらい魅力的で、ブレイクダンスやジャズなど広範なダンスの素養があり、身体能力も高い女優が、そもそも世の中に存在しなかった可能性が高い。いたとしても、この低予算な映画でそこまで時間とお金をかけて探すのは至難の技だったでしょう。
この状況下で、それぞれの素養を持つダンサーや女優を探し出し、この当時の技術で合体させ、アレックスという一人の革新的なダンサーを製作陣が成立させてしまったのですね。
ストーリーの中で、アレックスは、昼は溶接工、夜はキャバレーで働きながらダンサーの夢を追う一人の女の子。一度はオーディションのチャンスを掴みますが、クラシックバレエなどの正規教育を受けていないという理由で、そのチャンス自体を諦めてしまうのです。
それでもニックに見出され、ラストのオーディションで斬新で彼女にしかできないダンスを見せつけて合格します。それには、まだ知られていない新しいジャンル「ブレイクダンス」を取り入れる必要がありました。アレックスが街中で見かけた少年たちや、警察官が何気なく踊っていた動きが、ダンスの振り付けの中に取り入れられていたのも憎い演出です。
ぜひ、もう一度映画を見た際には、どこが該当するのか探しながら見てみてください!
踊りもさることながら、音楽も素晴らしいフラッシュダンス。特に歌詞には、夢を目指すダンサーの葛藤や希望が込められています。
First when there's nothing but a slow glowing dream
That your fear seems to hide deep inside your mind.
はじめゆっくりと熱くなって行く夢以外何もない時
あなたの恐れが心の奥深くにその夢を隠しているように見える
All alone, I have cried silent tears full of pride
In a world made of steel, made of stone
ひとりぼっちで自尊心でいっぱいの涙を静かに流してきた
鉄で作られた世界で、石で作られた冷たい世界で
Well, I hear the music. Close my eyes, feel the rhythm.
Wrap around, take a hold of my heart.
ほら、音楽が聞こえる 目を閉じて、リズムを感じる
包み込み、私の心を捉えるのよ
What a feeling!
Being's believing
I can have it all
Now I'm dancing for my life
なんという感覚なんでしょう
自分を信じなさい
私はすべての夢をつかめる
今私は命がけで必死に踊っている
Take your passion
And make it happen
Pictures come alive
You can dance right through your life
情熱を持ちなさい
そして希望をかなえるのよ
夢が現実になり
人生をずっと踊り続けていくのよ
Now I hear the music. Close my eyes, I am rhythm
In a flash,it takes hold of my heart
ほら、音楽が聴こえる 目を閉じて、リズムと一つになるの
すぐにリズムが私の心を捉える
What a feeling,
Being's believing
I can have it all
Now I'm dancing for my life
なんて感覚なんでしょう
生きることは信じること
今私は必死に踊っている
私は夢を叶えることができる
Take your passion
And make it happen
Pictures come alive
Now I'm dancing through my life
情熱を持ちなさい
あなたの物語を作るのよ
夢が現実になる
人生をかけてずっと踊り続けていくのよ
What a feeling
なんていう感覚なんでしょう
What a feeling
(I am music now)
Being's believing
(I am rhythm now)
Pictures come alive
You can dance right through your life
さて、余談ですが、この映画の主演ジェニファー・ビールスはオーディションでアレックス役を勝ち取り(ちなみに、この時の対抗馬はデミ・ムーアとレスリー・ウイング)、このあと一気にスターダムを駆け上がると思われました。
ところがフラッシュダンス続編の話が持ち上がった時、彼女は高額のギャラであったにも関わらず、
「金儲けや売名には全然興味がないの。せっかくの儲け話が遠のいて、事務所は大慌てだったと思うけど」
と出演をあっさりと断っています。
次に、出演した映画は「ブライド」。フランケンシュタインの人造花嫁役を演じますが、大赤字を記録し、ゴールデンラズベリー賞にノミネートされてしまいます。彼女の評判は一夜にして地に落ちるのですが、後年、長編ドラマ「Lの世界」でカムバックを果たします。
現実とは斯くも厳しく、夢は儚いのですが、彼女が続編への出演を断ったからこそ、フラッシュダンスのあの輝きは純度を保ち、今も輝き続けているのかもしれません。