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コラム「これが良いはずがない」

第10話「これが良いはずがない」

2019/04/20

なんか遅く見えるよねぇ、うーん遅く見えるよねぇ。今しがた撮った練習動画を見て法子が何度も呟く。

日本インターで引退デモンストレー ションを踊る機会を得て、昨年のセグエ『Zeal』を今一度披露することに。セグエというのは、競技会で披露するとその後1年間はショーで何度も踊るので否応無しに踊り慣れるものだが、同時にいい加減になる部分も生まれてくるものです。今回はそういう部分をもう一度締め直し、セグエ規定に縛られることなく嶺岸師匠のアイディアの元振付を構築し直したのです。

動画を撮っては確認し、撮っては確認していると、クイックステップのパートで法子が「遅い」を連呼し始めた。え?



タイミングは外れていないはずだけど、と言いながら眉をひそめ、とりあえずシャドーで僕が踊ってみる。それを見ても遅いと言う。自分で動画を確認しても遅いという意味がイマイチわからない。が、音楽に対する僕の踊りがしっくりしない感じは確かにあった。

試しにクイックカウントで歩幅を減少させてみた。「タイミングの変化は歩幅で出す」という引き出しが役に立つかと思ったけれども、これだ!というものにはならなかった。すると魔法使いのおば……お姉さんは言いました。昔オリバー(※)がさぁ、フォックストロットのタイミングはSQQじゃなくて本来QQSだって言ってたじゃない。それでやれば?

はぁ……この子は何を言い出すのか。そもそもその知識は僕は未だに理解しきれていない。仕方ない。どうせ無理があるということをわからせよう。単純にSQQと踊るべきステップをQQSとなるように踊ってみた。これが良いはずがない。しかし魔法使いはその方が合っていると言う。動画を見たら残念なことに音楽と合致していた。ななな、なんでぇ???

自己分析を試みる。これは前進の一歩目Sカウントで律儀に送り足をつま先まで使い過ぎていたためボディーフライトが遅れ、そのため次に来るQカウントでボディーが足を通過するタイミングが遅くなったということではないか。足は着くべきときに着いているのだけれども、ボディがその上に来ていないということだ。1、2歩目をQカウントで踊ることで送り足を律儀に使えなくなり最終歩に向けて走るようになった結果、音楽に合致したように見えた、ということだろう。

わかりにくいですね。単純に言うと「1の終わりでライズ」すべきところが「1の終わりでライズを始める」になっていたということね。

ふむ。わからないでもない。SQQで踊る全てのステップの一歩目を素早くパスしたものを魔法使いに見せると、彼女は頭の上で両手を輪っかにして頷いて見せた。そうしてそれから組んで踊ると、やはり残念なことにラクになった。今回は僕の敗北である。その日はふたり健やかな気持ちでニューモルデンの韓国料理屋さんを満喫できた。そして早速この出来事をメモに記し始めた。

※故オリバー・ウェッセル・テルホルン先生

俺パー的教訓其の十

やってもいないうちに否定しない