2018/10/17
「ナンカチガウ」
今日は組み始めた瞬間からお互いにそう感じていた。
アンドリュー・シンキンソンのレッスンがこれから始まるというのに、昨日からのワクワクが余計に落差を感じさせる。レッスンってぇのは何かを習いに行くのではなく、自分達の踊りをアピールしに行く場だ。
なのに。
レッスン前に待合室で予習をするのだが全然噛み合わない。
「カムイン!」
二人の空気が酷く淀んだままレッスンが始まってしまった。
今日は何やる?
ベーシックの確認を
よしやれ
気分は最悪だが気合を入れる
音楽がかかる
ナチュラルターンでつまづく
アンドリュー何も言わない
もう一回やる
つまづく
焦る
無言で法子の手を取りアンドリューは、音楽と共に部屋の向こうまでスイスイ見事なダンスを踊ってみせた。カッコいい。悔しいかな法子もカッコいい。こういう時は決まってクルクル法子を回し観客にアピールするように両手を広げ、高い鼻をさらに高くしてこっちを見て笑うのだ。御満悦な法子の顔を見てさらに腹が立つ私。
俺は間違って無い
そう、法子が悪い
だって家の片付けもしないんだもん
無意味な三段論法を捨て去り、
いやいやアンドリュー、踊りにくいでしょ、悪いのはこいつです!
と言えない私は苦悶顔で必死に訴えると、その顔を真似してさらに小馬鹿にしてくる。これも彼の常套手段。
ノープロブレム?
そんなわけない。
俺と踊ってくれ、俺だっていいはずだ!
さっきの憎らしい顔のまま女性役で組んでくれるアンドリュー。
予備歩から1・2・3。
ウワー、ジュン!(唾を吐き捨てるふりをする)
お前は何回俺のレッスンを受けてるんだ!
久々に説教を受ける。
しかしその一度のスイングで私はやっているつもりでやっていなかったある事を思い出す。ナチュラルターンはちょっと上級になると、2から3歩で、次の右回転を加速させる為に「LODに背面」して終わるのではなく「中央斜めに背面」したままロアをする技術がある。
しかしアンドリューはそれを嫌う。足が美しく揃いにくくなり第一印象を得る鍵であるナチュラルターンの成功率が落ちるからだ。アンドリューっ子の私は他所のレッスンでそれを習っても参考までに頭に入れて置くだけにしているのだが、知らないうちに出ちゃってたわけ。当然LODに面して終わっている法子と噛み合うはずがないのだ。(どっちも正しい方法であるが)
さぁ仕切り直し
予備歩から1・2・3
スイー
淳ちゃん御満悦
目の前の法子の「ほら見ろ」という表情ももう気にならない。最初の流れが良くなればその後も自動的にギチギチが解放される。
アンドリューと踊ったら思い出した、というのは、彼の技術に対する絶対的な信頼からくるもの。法子だって正しく踊っていたにも関わらず私はハナから彼女の方を否定していたわけだ。彼女の技術をどこかで疑っているということ。
しかしこれは競技を引退した今でも仕方ないと思っている。競技ダンサーたるもの自分の技術を信じる事は非常に大事な事。二人で同じ時間練習して、同じ数のレッスンを受けているのだからどっちが上手いも下手もありゃしないのである。
お前が悪い!
あんたがおかしい!
というただの意地の張り合いに時間を労する事が最も悪い練習である。まぁ、自分を疑ってみる事が最速の解決方法という時もあるが、それはまた別の機会に。
踊りにくいと感じたら今はその箇所を飛ばして、もしくは別の種目に切替えて次のレッスンで解決せよ。