2020年6月から7月にかけて、JDCオンラインラテンダブルス競技会が社交ダンス界の中で初めて開催されました。こちらはJDCやJCFでこの前期に新競技部門として設立される予定だった「ラテンダブルス」競技会をオンラインで開催したものです。
「ラテンダブルス」は同性カップルが同じラテンステップをベースにしたステップで踊るという新部門です。JDC現役競技選手である上脇友季湖先生が発起人となり、今の4月に各社交ダンスのプロ団体が連携して新設に取り組んでいる状況でした。
JDCでは4月にイーストジャパン選手権において初開催する予定でしたが、新型コロナウイルス感染防止対策のためにオンラインで開催されることになったものです。こちらは、競技者が規定時間踊った動画を送り、通常の競技会のように審査した後に各予選通過者や順位がウェブ上で発表されるという方式です。
ダブルスは同性カップルの出場という点で敷居が低く、また今回はプロアマミックスもOKという気軽さのため、競技会初参加の出場者もたくさん参加してくれました!またコロナ禍の中でもダンスに関心を持ってくれた参加者を元気づけたいと、ジャッジが入賞者だけでなく全員に講評、元統一全日本チャンピオンの瀬古薫希先生が動画でメッセージを出すなど、試行錯誤の中で行われました。
競技部門としてもオンライン競技会としても団体では初めての取り組みですので、開催にあたってはいろいろな課題も見られたそうです。これを修正しながら、次の取組に繋げていくことと思われます。
上脇先生・清水舞先生インタビュー
本競技部門設立の目的やこれまでの歩みを、上脇先生と同部門設立に尽力している清水舞先生にお話を伺いました(以下、お話は上脇先生)。
「ラテンダブルス」という新しい競技部門は、社交ダンスを始めてみたはいいけれど、やめてしまう人が少しでも減るように何かできないかと考える中から生まれました。ダンスに興味がある人というのはどの時代も一定数いると思うのですが、現状、社交ダンスを楽しめる主な場というのはコンペとデモとサークルであり、多くは異性のパートナーを必要としています。社交ダンスを習ったはいいけれど、早期に離脱してしまう方々やなかなか始める踏ん切りがつかない方々のことをつらつら考えるに、どうも原因がその辺りにありそうな気がしていました。
そんな時に、海外の女の子同士のシンクロラテンの動画がインスタグラムで流れてきました。プロの同性ペアのデモなどはこれまでも見たことがあったんですが、アマチュアの小さな女の子たちがお揃いの衣装を着たシンクロラテンが可愛らしくて、
「これ、いいじゃん!」
と思ったんですね。
すぐにABDC(全日本プロフェッショナル競技選手会)の会議に持っていき、更に上のプロ団体であるNDCJに提案しました。動画を見せたら、
「わー、可愛いね!」
とみなさん好感触で、とんとん拍子に実施する流れになっていきました。同性同士のコンペならもうすでに「レディース戦」があるじゃないか、という意見もありましたが、レディース戦は片方が男装をしてリーダー役を踊るパターンが多いので、そことは明確に違う方向性を目指したいと思っていました。異性装をする事なく踊れて、ステップ上もリードやフォローがない対等なものにしたかったのです。個人的には男装してリーダー役をやることは大好きですが、そうでない人への選択肢も作りたいという思いでした。
もちろん、レディース戦のように海外で既に行われているsame sexの競技会も今後日本でどんどん広まれば良いなと思います。誰もが何の制約も受けずに、やりたい役割(リーダー、フォロワー、ダブルス)でフロアに出られるとしたら素敵ですよね! これまでとは全く違う表現や個性も生まれるはずですし、そもそも踊ること自体は本来、誰もが自由に楽しめるものですから。
ラテンダブルスが、沢山の方々へ門戸を広げるきっかけになると信じています。
そのためにまず行ったのは参考動画の撮影です。日本に存在しないものを言葉で説明するのは困難でしたので、これを見れば一発でダブルスを理解できる、というものを作成しました。パートナーは清水舞先生にお願いしました。顔がこわばっているし、なんだかやけに硬い仕上がりになってしまったんですけれども(笑)。でも参考動画なので、見た人に「これならできそうだ」と思ってもらえるように振り付けしたつもりです。それがひとつできたことで、
「同性同士で、同じステップをベースに動くものなのだ」
という事は理解してもらえたのではないかと思います。
そして初めてダブルスを披露したのが、2019年7月に下北沢のライブハウスで行われたイベントでした。
実は全然ダブルスとは関係のない企画で、私が個人的に依頼を受けていたものだったんですけれど、何せ会場がライブハウスで社交ダンスを想定した会場ではなかったので、フロアが逆三角形のものすごく狭いスペースだったんですよ。通常の社交ダンスをお見せするのは無理だなということで、
「これは、ダブルスの良いプロモーションにつながるのでは!? どうせだったら、ダブルスやっちゃえ」
ということで舞先生に声をかけました。幸いにしてご快諾いただけて、その後もダブルス普及のための頼もしいパートナーとなってくれました。
ここではライブハウスで一般の方々にも披露するものでしたから、よりショーアップしたスタイリッシュな演目になっています。結果的にダブルスがゆくゆく発展して、
「上達して、ショーアップさせたらこんな見せ方もできる」
といういい事例が作れたのではないかと思います。
さらに驚いたのは、一般の方々が大変な熱量をもって見入って下さった事です。
男女ペアでの社交ダンスは「自分とはかけ離れた世界」という一般の方々の視線を往往にして感じていて、特にラテンダンスだと多少「見てはいけない世界」的な感覚を持つ方も多い気がします。ところが別の演目を見に来ていたライブハウスのお客様が、立ち止まって沢山の拍手を送ってくださり「社交ダンスでもこんな風に同性で踊れるならやってみたい!」と声をかけてくださったりしました。
「これは、この部門が発展する過程でアイドル的なユニットも誕生するかもしれないし、社交ダンスに興味を持ってもらう良いきっかけになるかもしれない」と感じました。
今後の展望としては、まずはダブルスをやってくださる方の人数を増やしていくことが一番必要なことだと考えています。というのも、一定の人数がいないと適正なセクションを設けることが難しいからです。
例えば、スタンダードの先生の中には参考動画の振付だとハードルが高いという意見を上げてくださる方もいます。私も、本当に未経験の初心者の方向けには、もっとハードルの低い部門があってもいいのかなと感じています。例えば使えるステップを限って、まさに海外のシンクロラテンに近い「ベーシックダブルス」なんて部門があったらいいかもしれません。違う教室同士の方でも1回合わせればできる、というマッチングの面でもより敷居を下げた形です。
逆に、元々経験者で素養がある人の場合は、下北沢でやったショー形式のようなレベルの高い振付で出場する可能性があります。そういう方々と初心者を同部門で出場させてしまうと、初心者のモチベーションを下げる可能性があって、現に今ダブルスの講座を受けてくれている初心者の方からは、
「順位をつけずにずっとエキシビションでいいのに」
なんて声も上がっています。
適正なレベル分けができないと不公平感につながってしまいますが、一方で母数が増えないとセクションを分けることができません。
ちっちゃい子たちのダブルスも可愛いでしょうし、アマチュアトップ、男性同士、シニアの方々……どんな方にも、それぞれの楽しみ方で楽しんでいただけるようになんにせよ人が増えて欲しいですね!
これまで、いきなり社交ダンスの世界に飛び込んで、何のコミュニティーもなくパートナーを探すのってすごく大変なことだったと思うんです。でも、ダブルスだったら、友達になった人とすぐに組める。そこで知り合いができて次につながる。元々の友達同士で、未経験者をダブルスの講座に誘うという方も実は少なくありません。「今日が社交ダンス初めてです〜」なんて方でも、ダブルスだったら1回でこなせてしまう人が多くて、裾野を広げるという意味でも機能しています。人と人とのつながりを作るという点において、ダブルスは適しているのではないかと思います。
他の教室でもやり始めたところが出てきているので、あっちこっちで広がってくれるといいですね。あとはダブルス用に可愛い、お手頃な練習着のラインが出てきたらいいな〜など、夢が広がります。
どんな方でも、性別やダンスのリード・フォローという役割にだけとらわれることなく、やりたいと思ったダンスを垣根なくやれるように……個人的には、参加してくださる皆さんのニーズでどんどん育っていく部門のように思えて大いに期待しています!
JDC(日本ダンス議会)オンラインラテンダブルス競技会
開催期間:2020年6月28日〜7月24日
シラバス:
シラバス.pdf
(取材/文:賀曽利奈穂)