山内
「ダンスマガジンAUDREY」が始動したのは2015年頃ですね。
小鳥さん
はい。前述の通り、2014年に市來玲奈さんの卒業イベントを開催し、週刊少年ジャンプにて「背すじをピン!と」が開始することが決定していた2015年。この頃には他業界の方々との繋がりやコラボレーションが増えてきて、それと共にやりたいこと、そして実際形にできることも増えてきました。
そこで、「Yes,ボールルームダンス」が目的としていた「ダンス界の情報をまとめる」という方向性を転換し、社交ダンス・競技ダンスを「ダンス界の外へ発信する」事を明確な目的とすることを決めました。イベントなどを自ら企画運営していく方向へシフトしていくのは大変でしたが、やりがいはありました。この年をきっかけに、「小鳥翔太が何者であるか」という所在がはっきりして、みんなにも認知してもらえたように思いますね。
山内
イベントのオーガナイザーとしては、まずはじめに「Dance Party Audrey」の開催がありますね。
小鳥さん
Dance Party Audreyは「芸能関係者や出版関係者の方々に、社交ダンスを見て・知って・体験してもらう」事を目的とした、異業種交流会のようなコンセプトで開催しました。
2015年12月にチャコットダンスキューブ勝どきで初開催した「Vol.ZERO」では、「背すじをピン!と」の横田卓馬先生をはじめとする集英社の関係者様、そしてキンタロー。さんや市來玲奈さんをはじめとするTBS「金スマ」のディレクターさんたち、そしてタレントさんやテレビ&雑誌関係者様、総勢50名ほどにご参加頂く事ができました。
山内
ダンサー側も豪華メンバーで、本当のダンスを知ってもらえたのではないでしょうか。
小鳥さん
そうですね。庄司組・増田&塚田組のチャンピオン2組をはじめとして、大西組・進藤&奥原組・須藤&庄司組・関根&沼田組・臼井組・西尾&下田組・亀川&富岡組と、ダンスマガジンAudreyとして初開催するイベントにも関わらず、トッププロたちに参加して頂き本当に嬉しかったですね。イベントの最後にコメントをしたのですが、自分の目指していたものに対してみんなが協力してくれた事が嬉しくて、思わず涙してしまったほどです。
山内
同時期の大きな出来事としては、カレンダー「社交男子」&「社交女子」の発売がありました。
小鳥さん
うん、これもすごくやりたかった事の一つです。僕は、社交ダンスのダンサーたちが、世間の誰もが認めるスーパースターになってほしいと願っています。他のジャンルのプロと比べても遜色ないほど素晴らしいスターたちがたくさんいるのに、それが世間的にはほとんど知られていない。自分がこの時に思いついたのはカレンダーという形でしたが、どんな形でも良いので少しでも世の中に広まってくれて、少しずつでも良いからより多くの人に知ってほしかったんです。
幸いなことにこの「社交男子」&「社交女子」はYahoo!ニュースにも掲載されて、たくさんの人に見てもらえる事ができました。また、ダンス界の中でも、この企画に大きな反響があったのは嬉しかったですね。
山内
翌年以降も、「背すじをピン!と杯」や「Shall we ダンク?」、そして一躍ダンス界を代表する大ブレイクイベントとなった「リアル10DANCE舞踏会」などをはじめとして、様々なイベントや新企画が続きました。
小鳥さん
そうですね。まず、「背すじをピン!と」の連載期間中、集英社さんに企画を持ち込んで色々と相談させて頂き、形になったのが「背すじをピン!と杯」ですね。作中の主人公たちに倣って出場資格を「ダンスを始めて3年以内」とした競技会なのですが、JCFさんの協力により日本武道館やグランドプリンスホテル新高輪・飛天の間で盛大に開催する事ができました。この「背すじをピン!と杯」は本作の連載終了後も継続して第4回まで開催させて頂くことができ、関係者の皆様に感謝しております。
山内
「背すじをピン!と」関連の話題として言えば、TBS「金スマ」とコラボした「ダンスパーティーAudrey Vol.1」も開催されましたね。
小鳥さん
はい。このイベントは社交ダンスを見て・知って・体験することを目的として、週刊少年ジャンプ本誌に告知を掲載させて頂き、社交ダンス未経験者150名を無料招待致しました。
当時「金スマ」にカップルを組んで出演していた山本匠晃さんと市來玲奈さんにもお越し頂き、トークショーやデモンストレーションを披露して頂きました。TBSさんと集英社さん、そしてたくさんのトップダンサーの皆様にご協力頂き、素晴らしいイベントになったと思います。
山内
イベントの様子が週刊少年ジャンプ本誌にも掲載されました。
小鳥さん
そうなんです。あのジャンプに載るなんて夢のようで、我ながらこれは本当にすごいと思いました。トッププロダンサーたちが踊っている姿を、全国300万人とも言われるジャンプ読者に見てもらえた事実がとても嬉しかったです。
そして、個人的な気持ちとしても、自分が企画したイベントがジャンプに掲載されたということが嬉しかったですね。熱狂的なジャンプっ子だった子供の頃の自分に教えてあげても信じてもらえないと思います笑
山内
バスケットボールのプロ団体「Bリーグ」のチーム、「アースフレンズ東京Z」とコラボした「Shall we ダンク?」はどのような経緯で開催されることになったのでしょうか。
小鳥さん
またこれも偶然で、たまたま飲み屋で隣になった席の人が「バスケの試合で何か面白いことできないかな」って話しているのが聞こえて、「それ、社交ダンスやらせて下さい!」って話に飛び込んで行ったんです。
山内
ひどいいきさつ笑
小鳥さん
それがとんとん拍子に話が進んで、結果、1,500人以上の大観衆の中で踊ることになるとは思いませんでした。何でも言ってみるもんですね。
山内
漫画「10DANCE」とのコラボイベント「リアル10DANCE舞踏会」もそのような感じなのでしょうか?
小鳥さん
実は、「リアル10DANCE舞踏会」は後付けのイベントだったのです。というのも、まずその日は市來玲奈さんをメインとしたイベントの開催が決定していて、市來さんのリーダー役として増田大介先生をお呼びしていました。そのイベントの企画考案中に、「10DANCE」の編集をしている田中さんと監修を担当している下田先生とお会いすることになったのですが、お二人から、「10DANCE」コミックス発売記念として何かアイデアがないかと言われて、「それなら、イケメン確保している日ありますよ」、と。
山内
言い方笑
小鳥さん
市來さんのイベント終了後に、増田先生をはじめとする男性ダンサー同士で実際に踊ってもらうイベントをしたら面白いんじゃないですか、と。これも講談社さんの承諾を得た後は田中さんと下田先生のご協力の元でとんとん拍子に話が進んで、結果として自分史上最高の反響を受けるイベントとなりました。
山内
SNSでの反響は社交ダンス界始まって以来最大の盛り上がりで、まさに「リアル10DANCE」祭りでした。
小鳥さん
お客様たちがTwitterでたくさんのツイートをしてくれたおかげで、トレンドに「リアル10DANCE」が入ったり、イベントの写真見たさにダンスビュウが100冊以上売れたりしたらしいので、ファンの熱狂ぶりも相当なものですよね。
企画当初はこのイベントに人が来てくれるのかどうかを心配していたくらいなので、お客様に楽しんで頂くことが出来て本当に良かったです。
山内
数々のイベントを成功させて大活躍の日々でしたが、同時に身体を壊して吐血した事件(?)もありました。
小鳥さん
うん。いまだにみんなに言われる「吐血事件」笑。今だから笑って話せますが、当時はリアルに死ぬんじゃないかなと思いました。盛大に吐血した後、1週間は全く動けませんでしたからね。
自分、Audrey小鳥翔太としての仕事の他に普通に働いていますので、毎日通常の仕事をして、ダンスの練習をして、帰宅してから深夜までAudreyの仕事をこなす日々でした。Audreyの仕事として「背すじをピン!と」のネームをチェックして、新企画の立案や交渉をして、イベントの細かい準備をして、日曜日も「金スマ」の取材に行って、異業種交流会に行って、時には競技会に出場して…なんてしていると、一年を通してほとんど休む暇もありませんでしたね。
毎日睡眠時間3〜4時間で延々生活していたのですが、舞台「FOCUS」が近づいてきた時にキャパオーバーしてしまったのです。身体は正直でした…
山内
今は体調は大丈夫なのでしょうか。
小鳥さん
はい。このままでは本当に死んでしまうと思ったので、Audreyの仕事も通常の仕事も少しずつセーブして、無理のない範囲で活動を行うようにしました。当たり前ですが、睡眠時間と食事の時間をきちんと取るようになってからは吐血していないですね。イノチダイジニ。
山内
倒れて動けなくなってしまっては元も子もないので、お互い体調には十分気をつけましょうね。
小鳥さん
ね、お互いに。
あとは、簡単に言うと誹謗中傷ですかね。大半の方々は自分の活動を好意的に見てくれていた(と思う)のですが、ごく一部の方々からは、誰だかよく分からない奴がダンス界を乗っ取ろうとしているとか、金儲けのためにイベントを開催しているとか、とにかく私利私欲のために活動していると言われることがありました。まぁ、山内さんをはじめ分かってくれる人たちが周りにたくさんいたので、あまり気にはなりませんでしたが。
山内
イベントや各種企画は全てポケットマネーで活動していたそうですね。
小鳥さん
そうですね。特にスポンサーがいるわけでもないので、自費で活動していくしかありませんでした。1つイベントをやると約100万円、カレンダーなどの大きな企画はその倍くらいの出費でした。「支出」が、ではなく「収支」がそのくらいなので、イベント的には毎回大赤字続きです。それでもみんなが楽しんでくれるなら、ダンスが少しでも世の中の人々に広まるなら良いと思って活動していましたね。
山内
普通の感覚ではできないですよね。高額の宝くじが当たったのではないかとも噂されていましたね。
小鳥さん
残念ながらそんなことは全く無く、貯金&通常の仕事の稼ぎで捻出していた資金も底をついてしまいました。収益が出る企画をしていかないと続かないと言われ続けていましたが、正にその通りになってしまいましたね。
ですが、収益が出るような企画ということを第一に考えると、どうしてもありきたりで面白みのかけるイベントになってしまいます。それならば、後のことは考えず、今持っている全力の力で、今までにない面白いことに挑戦していこうと考えていました。
まぁ、後先考えずに資金を使い続けた結果今ではすっかり借金生活ですが、むしろ精一杯やれたので悔いはないですね。
山内
身銭を切ってやり切った成果は出ていると思いますよ。これからはちゃんと貯金できるようにして下さいね。
小鳥さん
もう1つは、コンプレックスと劣等感です。これは、今までほとんど言ってきませんでしたが、自分自身がダンサーということが、強いコンプレックスと劣等感を感じることに繋がっていました。自分自身は今も全く無名のダンサーなのですが、競技会に出ている以上、誰よりも素敵に踊りたい、世界で活躍するようなダンサーになりたい、と夢を抱いてこの世界に入ってきました。しかし、実際には霞んで見えないほど高いところに頂上があって、世界中に素晴らしいダンサーたちがひしめき合い、更に若くて素晴らしいダンサーたちがどんどん出てきて凄まじいスピードで次々と追い抜いていくのを年々実感するのです。
小鳥さん
自分がイベントなどで日本のトップダンサーたちをゲストに迎えて踊ってもらった時、素晴らしい踊りに感動するとともに、なぜ自分があの光の当たる場所に立っていないのか、なぜあちら側に行けなかったのかと思いながら見ていました。悲しくてやりきれなくて、自分が嫌になるし、でもそれと共に、スポットライトを浴びて立っているダンサーたちの計り知れない努力を心底尊敬しました。そして、その努力すらできなかった自分なんかが、光輝くダンサーたちと一緒にいて良いのだろうかという疑念の中、時を過ごすこともありました。
小鳥さん
しかし、トップダンサーたちは皆一様に素晴らしい人間でもあり、こんな自分に対しても最大限の敬意と謙遜をもってイベントに参加してくれました。イベントによっては、全てにおいて劣っているはずの自分がリーダーとなって全体をまとめて指示をする時があったのですが、そんな時でも、チャンピオンたちを含めてみんな何も文句を言わず協力をしてくれました。素晴らしいダンサーたちに協力して頂いたことに、本当に感謝しています。
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